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『涙のフィナーレ。日体大が最後に宝物のトライ』

nittaidai

まっちゃん部長日記@保土ヶ谷公園ラグビー場


 涙、涙のノーサイド、完全燃焼のラストゲームである。巳年が明けた5日、日本体育大学ラグビー部女子は、社会人クラブの強豪、東京山九フェニックスに敗れた。日体大にとっては本年度の最終戦。7-29の完敗も、学生らしい「ひたむき」なラグビーでみる者の心を揺さぶってくれた。



 ◆夕日に向かって最後の猛烈アタック

 

 15人制ラグビーの『OTOWAカップ 関東女子ラグビー大会』。横浜郊外の小高い丘の上にある保土ケ谷ラグビー場だった。最後の最後、日体大はひとつになって、薄いオレンジ色に染まった夕日に向かって攻め続けた。敵陣に攻め込み、ペナルティキックを相次いで奪う。すぐにアタック。ポストまじかにラックをつくり、左サイドにフォワードがボールを低く持ち出す。タックルを受けても倒れない。サポートと一緒に踏ん張る。

 もういっちょ左、そして右に。その都度、濃紺と水色のダンガラジャージの塊ができる。ぐぐっとゴールラインに向かって動く。あと1メートル。「いけぇ~、いけぇ~」。絶叫に近い声援がスタンドから飛ぶ。もういっちょ左、もういっちょ右。フィジカル優位の社会人も必死だ。もちろん、日体大も必死。意地と意地がぶつかる。

 引きちぎられたグレーのヘッドキャップが宙を舞う。数分間は続いただろう。突然、日体大は右オープンに一度振り、ラックから今度は左へ。名スタンドオフの4年生、大内田夏月が鋭利するどいランで左に切れ込み、ラックから少し離れた位置からナンバー8の向來桜子がポスト左に飛び込んだ。トラ~イ~。やった~!

 

 ◆向來が4年生に贈る惜別のトライ

 

 電光掲示板の数字は「45:35」だった。ラグビーは40分ハーフだから、ロスタイムが5分余りも続いたことになる。歓喜の爆発。向來がガッツポーズする。みんなが笑顔でハイタッチ。スタンドの日体ファンは泣いていた。

 「みんなで取ったトライです」と、向來は言った。「あれは、フォワードが我慢して、バックスも取りきろうとしながらもちゃんとキープしてがんばってくれました。ちーさん(古賀千尋監督)が練習で言っていた、ディフェンスが寄った後は外が空いているというアドバイスを思い出したのです。それも、みんなががんばってくれていたから、そんな考えがふっとよみがえったのかなと思います」

 いわば卒業する4年生に贈る惜別のトライか。頑張り屋の集まりの4年生にメッセージを、と聞けば、元気よく応えてくれた。

 「4年生には、もう卒業しても大丈夫です、といった感じのトライだったのかな。安心してもらうような。4年生、ありがとうございました」

 

 ◆選手も保護者の一緒に泣いた

 

 試合後のセレモニー。向來が試合の『モスト・インプレッシブ・プレーヤー』に選ばれた。マイクに向かって、こう声を張り上げた。

 「日体大はこの試合、ラストだったんですけど、一番楽しめた試合だったのかなと思います。これから、また新チームを作り上げていくんですけど、今日の試合で得たものを力をして、イチ、ニイ、サン年生でがんばっていきたいと思います」

 スタンドの保護者、ファンの拍手が寒風に乗る。

 持てる力を出し切った日体大の選手たちが、スタンドの前に整列している。主将のフランカー樋口真央は涙声で号令をかけた。

 「みなさん、ありがとうございました。礼!」



 樋口だけでなく、4年生のウイング、梅津悠月も涙を流していた。ふとスタンド席をみれば、樋口や梅津らのご両親も一緒に泣いていた。ああ親子の情はかくも深い。

 余談ながら、ラグビー場から最寄りの駅への帰り道、三重から駆け付けた樋口のご両親と偶然、一緒になった。

 毎試合のごとく、試合会場に来ていただき感謝です、大変でしょう、と言えば、樋口パパはこう、しみじみと漏らした。幸せそうに。

 「いえいえ。いろんなところに連れていただき、楽しい思いをさせてもらいました」

 

 ◆古賀監督「日体大のラグビーを追求しようという姿勢はあった」

 

 日体大はこれで関東大会では2勝4敗となり、上位2チームによる全国大会には進出はできなかった。ひと言で言えば、力負けである、フィジカルで圧倒された。東京山九はパワフルだった。例えば、55キロの4年生スクラムハーフ、山本彩花が、相手の交代プロップ、90キロの岸本彩華に低くタックルにいく。つい小林一茶の有名な俳句が口をついた。<やせ蛙 負けるな一茶 これにあり>

 しかも、相手チームには日本代表のFB松田凛日ら日体大卒業生もいる。そりゃ、強いに決まっている。でも、日体大は果敢に挑戦した。相手に挑みかかる気概は最後まで衰えなかった。古賀監督は、やさしい口調でこう漏らした。

 「最後まで自分たちが求める日体大のラグビーを追求しようという姿勢はありました。そこはうれしかったですね」

 試合テーマが『伝説のユニコ』。

 「まあ、日体大らしい連続攻撃といった感じでしょうか。ボールがどんどん動いて、見ている人がワクワクするような」

 例えば、前半の序盤の日体大の連続攻撃は感動的だった。順目にテンポよくつないで、大きく左右に揺さぶる。FW、バックス一体となった攻めは、20フェーズ(局面)は続いただろうか。最後は4年生ロックの西村澪が突進してインゴールになだれ込んだ。トライかと思いきや、相手にホールドされてノートライとなった。惜しかった。とっても惜しかった。

 試合後、西村は明るかった。涙はない。

 「最後、向來がトライをとってくれてよかったです。楽しかったです」

 再び、古賀監督の試合総括。

 「いいところもたくさんあった。タックルもがんばっていました。ただ、エッジのところで向こうにいいランナーがいたので、そこでちょっと崩されたかなという感じです。あとペナルティーが多かったかな」

 ペナルティーは相手8個に対し、日体大は11個を数えた。スクラム、ラインアウトはやられ、相手プレッシャーにハンドリングミスも出た。



 古賀監督がつづける。

 「とくにディフェンスの部分では苦労する部分が多かったんですけど、局面、局面で心揺さぶるようなタックルも見られました。点差は離れたけれど、いいプレーもたくさんあったと思います」

 

 ◆1年総括、古賀監督「出場辞退か、練習強度か」

 

 それでは、1年の総括は。

 そう聞けば、古賀監督は「なんだろう」と漏らし、少し考えた。

 「出場辞退をとるか、練習強度をとるか、その二択でした」

 厳しい1年だったのだろう。昨年のチームからレギュラー陣が半分卒業し、けが人も続出した。指導者としてはさぞ頭を痛めたことだろう。

 「練習強度をあげれば、すぐに怪我人がを出てしまう状態で、これ以上人数が減れば出場辞退を検討せざるを得ない状況だったので、そう練習強度を上げられない状況が続いていました」

 つまるところ、厳しい練習に耐えうるからだづくりが課題か。現実問題として、パワーでは圧倒的に社会人にはフィジカルで負けている。どう克服していくのだろうか。

 「からだづくり、食事、そういうところを含めて、グラウンド外での地道な努力を、日々、どこまで本気で積み重ねられるかどうかでしょう」

 

 ◆樋口主将「長いようで短いような…」

 

 それにしても、卒業する4年生はよく頑張ってくれた。

 160センチ、66キロの“小さな闘将”、樋口主将は最後もいっぱい泣いた。よほどタックルをしまくったのだろう、大腿部には擦り傷(昭和の時代、これをビフテキと称した。めちゃくちゃ痛い)をつくっていた。

 3年生までは怪我も多かったけれど、本年度は主将としてチームをリードした。どんな1年間?と聞けば、「う~ん」と漏らし、「聞かないでください。泣いちゃう。う…」。すみません。で、少し考え、こう言葉をつづけた。

 「1年間、結構苦しい思いのほうが多かったんですけど…。最後、みんなで80分間、戦えて、よかったです。とくに向來ががんばってくれました」

 大学4年間は?

 「長いようで短いような…。下級生の頃は長く感じたんですけど、3年生になったら、あとはあっという間でした」

 

 ◆卒業する4年生の青春のカケラは

 

 では卒業する4年生の青春のカケラ(言葉)を拾い集めた。

からだを張ったロックの村瀬加純はこう、言い切った。

 「一番、笑顔で楽しくできた試合でした」

 ウイング梅津もよく泣いた。もう目が真っ赤。どんな大学ラグビー生活でしたか?

 「ラグビー人生で一番、成長できました」

 フッカーの根塚智華も泣いた。ポカリスエットのペットボトルで涙をふきながら、こう漏らした。

 「最後のシーズンで勝ち切れなかったところは悔いが残るんですけど、このメンバーで最後の試合までやりきれたことがすごいよかったです。いい思い出をつくることができました。自分のこれからの力になります」

 センターの山田莉瑚は、シューズで西日を避けながら。

 「最後、日体らしいアタック、ディフェンスをすることができて、すごくうれしかったです」

 SOの大内田は笑顔だった。

 「この仲間たちと出会えて幸せでした。このメンバーだからこそ、ここまで頑張ってこれたと思います。最後、負けちゃったけれど、自分たちのラグビーをやりきることができてよかったです」


 

 ◆青春の宝物

 

 いろんなことがあった1年だった。

 それも時が経てば、かえり見る微笑に変わる。意気であり、感激となる。青春の宝物となる。それも素敵な仲間がいればこそ、だろう。

 4年生8人は全員、ラストゲームのレギュラーをつとめた。おつかれさま、そして、ありがとう。



 (筆:松瀬学)

 

 
 

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