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まっちゃん部長日記


 なんと尊いものだろう、二度と帰らぬ青春の涙とは。新春4日。日本体育大学ラグビー部女子は、15人制の関東大会最終戦で横河武蔵野アルテミ・スターズに敗れ、全国大会進出の夢はついえた。これでシーズン終了。部員たちはみな、悔し涙を流した。

 ノーサイドから約1時間が経った。着替えて全員集合のロッカー室。主将の4年生ナンバー8、向來桜子は泣きながら、声を張り上げた。もらい泣き、鼻をすする他の部員の音も聞こえる。

 「4年間、ほんとうに楽しかったです。みんな、お疲れさまでした」

 学生スポーツは切ない。活動は、4年間と有限である。だから、青春のすべてをぶつける。毎年、チームのメンバーは入れ替わる。シーズンが終われば、4年生は必ず、卒業する。じっと、目をつむると、さまざまな仲間との出会いやわかれのかたちが思い出されて、学生生活の濃密な時間をしのばせてくれる。


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 花に嵐のたとえもあるさ

  さよならだけが

   人生だ

 

 ◆日体大、『魂(かたまり)』のディフェンス

 

 全国大会キップをかけた試合だった。神奈川県小田原市の小田原市城山競技場。日体大は勝てば、関東大会上位2チームに入る可能性が大きくなり、全国大会出場の夢が膨らんだ。負ければ、全国大会への道は閉ざされるのだった。結局、10-19で敗れ、日体大は3勝3敗の4位に終わった。

 「魂」。これが試合のテーマだった。試合前、古賀千尋監督が説明してくれた。「魂と書いて、かたまりと読むことにしているんです」。つまりはチーム一丸だった。魂の結束である。

 午前11時30分キックオフ。序盤から日体大の魂のタックルが炸裂した。相手FWは大型で日本代表選手が並ぶ。しかもフランカー山本和花らFW4人は日体大OGときたもんだ。基礎がしっかりして強いに決まっている。

 序盤の数分間、日体大はゴール前ピンチが続いた。でも、横河の強力選手たちにひるまず、まっすぐ挑みかかった。タックル、タックル、またタックル。とくに向來主将、4年生プロップの峰愛実、4年生フランカーの持田音帆莉、2年生ロックの八尋瑛の猛タックルたるや。その度、スタンドがどよめいた。

 前半13分、ラインアウトからのドライビングモールを押し込まれて、先制トライを奪われた。でも、すかさず反撃。3分後、PKをタッチに蹴り出して、ラインアウトからモールを押し込み、前進を阻まれれば、ラックサイドをこれでもか、と次々ついて、プロップ峰が右中間にボールを持ち込んだ。4年生の意地のトライ!

 成長著しい2年生SOの谷山三菜子がゴールキックを慎重に蹴り込んで7-5と逆転。さらに前半29分には真ん中左からの20メートルPGを難なく成功させ、10-5とリードを広げた。前半はこのスコアで折り返し。


 ◆後半、パワフルな横河にセットピースでやられる。痛恨のコラプシング

 

 古賀監督の述懐。

 「ディフェンスは最初、よかったですね。魂を見せてくれたと思います。タックルは素晴らしかったですけど、セットピース(スクラム、ラインアウト)でやられました。アタックのスクラムでは球すらでなかった。それと、ハイパントの対応ですね」

 後半は、相手のハイパントとパワフルな攻めに自陣での攻防がつづいた。スクラムの度、ノンメンバーの声が飛ぶ。「アコ! 引くな!」。1年生フッカーの浦山亜子への檄である。トイメンは日体大OGの日本代表フッカーの谷口琴美だ。スクラムは何より、気持ちで負けたら押し込まれる。

 接点でも食い込まれるようになっていった。後半8分、ゴール前ピンチのPKから攻められ、日本代表の横河SH、津久井萌にポスト下に飛び込まれ、ゴールも成って、10-12と逆転された。

 あえて勝負のアヤを探せば、その後、敵陣に入っての日体大ボールのスクラムだったであろう。これを押し崩され、コラプシング(故意に崩す行為)の反則をとられた。この逸機は痛かった。しかも、スクラムの要の右プロップ、3年生の麻生来海が足を負傷して退場する羽目になった。

 その後のマイボールのスクラムでもコラプシングの反則をとられた。後半36分、PKからどとうの攻めを食らい、日体大の先輩のベテランフッカー谷口にとどめのトライを奪われてしまった。ゴールも決まり、10-19となった。

 

 ◆最後に日体大らしいスピーディーな展開攻撃

 

 でも、日体大魂は生きていた。ここから、ようやく日体大らしいスピーディーな展開攻撃がはじまった。FWが走る。SO谷山がボールを左右に散らす。4年生の高橋夏美、交代出場の4年生の松田奈菜実が最後の力を振り絞って走り回った。テンポよくボールがつながる。期待の1年生CTB、大内田葉月も鋭利するどいランで勝負を仕掛けた。

 これだ、これ。敵陣深くに入って、最後はノックフォワード(旧ノックオン)。スクラムからタッチに蹴り出され、冬空に乾いたノーサイドの笛が鳴った。


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 ◆古賀監督「非常に残念です」、でもチームは成長「おもしろかったですね」

 

 試合後、古賀監督に声を掛ければ、「非常に残念ですね」と小声で漏らした。

 「今日、(シーズンを)終わるつもりは全然、なかったので。神戸(全国大会の会場)に行く気は満々でしたけど。蹴りすぎの観はありました。キックと展開のバランスを、状況判断できるようになるともっとよかったかなと思います。うちはいいランナーがいっぱいいるので、そこをもうちょっと使いたかった。向こうのやりたいラグビー、強みを前面に出させてしまいました」

 そうは言っても、若い学生チームはシーズンを通して成長していた。関東大会初戦(昨年11月9日)で立正大に苦杯を喫し、続くPieces(ピーシーズ=同11月23日)では勝利しながらもノックフォワードを18回もしていた。

 そんなチームが、セブンズ日本代表の谷山、大内田、高橋夏未が合流すると、“日体大らしい”チームに変わっていった。前節(昨年12月28日)には、関東大会を制したYOKOHAMA TKMを倒すまでになった。

 まさにチームとは生き物である。古賀監督は「おもしろかったですね」と少し笑った。

 「こんなにチームが成長するとは思いませんでした。学生らしく、成長しました。今日は、ノックオン(ノックフォワード)、球をあまり触ってないのもありますけど、5回くらいしかしていないんじゃないかな」

 

 ◆日体大女子ラグビーの“母”並木富士子さんも観戦「最後まで走り続けて」

 

 ところで、この日、試合会場には、日体大女子のレジェンドが2人、駆け付けていた。1990年代、日体大ラグビー部女子の基盤をつくった並木富士子さんと、日体大OGで日本ラグビー協会副会長(理事)の浅見敬子さんである。

 並木さんは試合前、ロッカー室で選手たちにあいさつし、「今の自分の時間を大切にしてください」と言ったそうだ。並木さんはいわば、“日体女子ラグビーの母”か。グラウンド脇で話を聞けば、こう柔らかい声でおっしゃった。

 「(日体大は)学生のまとまったチームですから。相手チームにも日体大の卒業生がいて、うれしいことです。日体大といえば、やはり走るラグビー、ランニングラグビーなので、最後まで走り続けて、チャレンジしてほしいですね」

 青春を突っ走れ!といった感じですか、と言えば、並木さんは笑いながら、「そうそう、(ジャージーは)青ですからね」と話を合わせてくれた。

 浅見さんは後輩たちに「完全燃焼」を期待した。こちらは、“日体女子ラグビーの長女”といったところだろう。

 「普通、4年間、ここまでラグビーに情熱を注げられないじゃないですか。スポーツ専門の大学に入学して、ラグビーに集中できる環境にあります。学生はすごく恵まれています。親御さんにも感謝です。だから、4年間、自分の最大限のパフォーマンスを出すことは大事ですよね」

 日体大の強みは?

 「古賀さん(監督)がやっぱり、分析なども緻密にやってくれるじゃないですか。一人ひとりを丁寧に見ているし、選手もそれに応えようとしてやっています。ひたむきに、ピュアにラグビーに向かっていく姿勢でしょう」

 

 ◆向來主将「すごく楽しいラグビーが4年間、できた」

 

 試合終了後の表彰式。

 向來主将が「モストインプレッシブプレーヤー」に選ばれた。

 マイクに向けて、「全国大会に出場するために勝利が必要な一戦だったんですけど」と話したところで言葉に詰まった。涙が目にあふれる。スタンドで「よくやった」「がんばれ!」との拍手が巻き起こる。

 「みんなと一体感を持ってプレーできたことを、すごくうれしく思います。下級生がすごく成長し続けてくれた1年間だったので、これからも日体大の応援をよろしく、お願いします」

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その30分後、ロッカー室の前で話を聞けば、向來主将は「悔しいです」と漏らした。

 「とくに4年生にとっては、すごく悔しい試合でした。ただ下級生も悔しいとは思いますけど、すごくいい経験になると思います。この悔しさを来年に生かしてくれればいいのかなと思います」

 どんな4年間でしたか?

 「あっという間でした。勝ってうれしかったり、負けて悔しかったり…。みんなで準備してきたものを発揮できた試合があれば、できなかった試合もあって。1年生の時から試合に出させてもらって、自由にやらせてもらって…。ちーさん(古賀監督)をはじめとして、先輩、後輩、そして同期に支えられてばっかりでしたけど、すごく楽しいラグビーが4年間、できたなと思います」


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 ◆主将の手首には4年生・畑田の檄「桜子の分まで」

 

 ふと右手首をみれば、薄茶色のテーピングテープにこう、黒字で書かれていた。<桜子の分まで」と。試合前、負傷欠場した4年生の畑田桜子が書いたものだった。

 その畑田は笑いながら言った。

 「なんか、ラグビーの楽しさを知ることができました。ラグビーってこういうものだなって。いろいろありましたけど、(4年間)ほんと、楽しかったです」

 表彰式後、4年生6人が集まって記念撮影に応じていた。


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 ◆涙の4年生・高橋夏未「一体感を持ってラグビーができた4年間」

 

 豊富な運動量でチームを引っ張った高橋夏未は撮影後、ひざをついたまま、しばらく泣いていた。見ているこちらの胸も痛くなる。

 「結構、強気ではいけたんですけど、丁寧さだったり、集中力だったり、相手より足りなかったかなと思います。最後、声掛けとか、プレーでチームを立て直したかったんですけど、できませんでした。ラグビーって難しいなと思いました」

 どんな4年間でしたか?

 「強いチームに入ってきて、こう、4年間過ごす中で、いい先輩といい後輩に出会えて、自分だけで強くなるというより、みんなで一緒に一体感を持って、ラグビーができたなと感じた4年間でした」

 

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 ◆ラグビーから離れる4年生・持田副将「心も体もどっちも成長できた」

 

 ほとんどの4年生が卒業後もラグビーを続ける中、副将の4年生フランカー持田は、競技生活から離れる。言葉に実感をこめる。

「これでラグビーは終わっちゃうんですけど、自分の人生において、すごい経験ができたなと思います。心も体もどっちも成長できた、そんな4年間でした」

 いつも元気ながんばり屋さんの松田奈菜実はこうだ。

「4年間、あっという間でした。けがとかで悩まされたんですけど、周りの仲間からの励ましがあって、ここにいます。強い自分になったのかなと思います」


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 4年生の最後は、チーム内MVP(ゴールドシール)に選ばれた峰愛美はうれしそうだった。「最後、日体大らしい一体感を出せました」と言った。

 「私も、4年間、すごく楽しかったことのほうが大きくて。きつい練習とかもあったけれど、それをみんなで乗り越えて、今の自分たちがあると思います」


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 ◆3年生・水野小暖「この悔しさをバネに絶対、全国制覇を」

 

 人は変われど、日体大ラグビー部というチームは引き継がれていく。

 3年生センターの水野小暖は、「個人的には不完全燃焼です」と言い切った。

「悔しい。まだ試合が終わってない気がします。来年度、この悔しさをバネに絶対、(全国)制覇します」

 

 ◆2年生・谷山「すごくいい1年だった」、1年生大内田「1年間、メチャ短く感じた」

 

 2年生エースの谷山もまた、「不完全燃焼」と口にした。

 「やりたかったことができなかったことがほんと、悔しいですね。ゲームをうまく運べなかったのが、甘かったかなと思います。(スペースが)空いているところにもう少し早めに攻めていたらよかったかなと。そこは私の責任だと思います」

 どんなシーズンでしたか?

 「最後悔しかったんですけど、ことしは15人制の試合もプレーできて、自分にとってはすごくいい1年だったなあって思います」

7人制日本代表でも活躍し、2025年ワールドチャンピオンシップの『ベストトライ賞』にも輝いた。20歳は言葉に力をこめた。

 「ことしは下級生が多く、来年度にも主力の選手が残っていくので、みんなで力を高め合っていけたらいいなと思います」


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 ピカピカの1年生、我が母校の福岡・修猷館高卒の大内田葉月は、「今日は、ボールを持つ機会がメチャ少なかったです」とこぼした。

 「1年間、メチャ短く感じました。あっ、もう1年が過ぎたんだなって。ほんと、ラグビーが充実し過ぎていました。来年度も日体大の選手として、日本代表として、結構、がんばっていきたいです」


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 ◆古賀監督「相手に対抗できるセットピースを作り上げる」

 

 再び、古賀監督。負けじ魂に火が付いた。

 「今日の(横河の)セットピースに対抗できるセットピースを作り上げないと、全国大会にはいけないということを痛感させられました」

 来年度には有望なFWが大勢、入学してくる見通しだ。

 「FWの層が少し厚くなります。楽しみです」

 

 ◆部長も“卒業”。「サヨナラ」ダケガ人生ダ

 

 余談ながら、僕も3月、日体大を“卒業”し、他の大学に移る。

 ラグビー部長は交代となる。

 3年間、心もからだもボロボロだったけれど、実は日々、心ズキズキ、ワクワクだった。若者の情熱と意気に触れれば、疲れは吹っ飛び、楕円級のごとく、心はあちこちに弾むのだった。

 古賀監督、伊津野立一トレーナー、ありがとうございました。

 学生のみなさん、とても感謝です。

 保護者のみなさん、大学関係者、ファンのみなさん、ありがとうございました。

 それでは、どこかのラグビー場でまた、お会いしましょう。

 

 冒頭の詩の原詩は、中国の于武陵(うぶりょう)の『勧酒(かんしゅ)』である。それはこうだ。

 

 コノサカヅキヲ受ケテクレ

 ドウゾナミナミツガシテオクレ

 ハナニアラシノタトエモアルゾ

 「サヨナラ」ダケガ人生ダ


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           (2026年1月4日/筆:松瀬学、写真:善場教喜さん)

 
 

 ちょっと早いけどメリークリスマス。日本体育大学にとってはハッピー・ウイークエンドだった。土曜6日には男子が関東大学対抗戦で連勝フィニッシュを決め、日曜7日には女子が関東大会で完勝した。まさに覚醒。眠気マナコのサンタクロースもびっくりだ。

 覚醒ですか、と聞けば、この日の冬の太陽のごとく、古賀千尋監督は満面の笑みを浮かべた。「はい。ようやく、ですね」と。

 「予定通りです。もともと、力があるのはわかっています。でも、なかなか力を発揮できずに、苦しかったんですけど、ずっと。フォワードとバックスのコミュニケーションがとれてきました」

 

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 ◆日体大がGODを55-0で撃破

 

 快晴下の12月7日、調布市の府中朝日フットボールパークだった。時折、近くの調布飛行場にセスナ機が飛んで来る。15人制の関東女子ラグビー大会。黒星発進した日体大だが、GODに55-0で完勝し、2勝目を挙げた。ちなみに、GODとはRKU(流経大)グレース、弘前サクラオーバルズ、北海道バーバリアンズ・ディアナの3つの合同チーム。実は、日体大は1年前、この会場で、主力のRKUグレースに敗れていた。だから、おっさん部長は少し心配していたのだが。

 杞憂だった。この試合のテーマが『覚醒』だった。キックオフ直後、我らのキャプテン、ナンバー8向來桜子がペナルティーキックから素早くアタックし、中央に先制トライした。

 結束したスクラムでぐいぐいと押し込み、コラプシング(故意に崩す行為)の反則を連続してもぎとった。FWが前に出れば、スタンドオフに入ったセブンズ日本代表の谷山三菜子のパス回しも冴える。前半12分。オープンに回して、15人制日本代表のウイング畑田桜子が左中間にトライした。


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 この日は、SHが名手の高橋夏未、SOは谷山が並び、FBには1年生の元気印、大内田葉月が入った。バックスラインがスピードに乗る。谷山のエリア取りのキックも距離が出たこともあって、終始、敵陣でのゲーム展開となった。

 FWだって、負けてはいない。ゴール前に迫れば、密集サイドをサンタのごとき赤色ヘッドキャップの15人制日本代表プロップの峰愛美らがガンガン、パワーで突いていく。前半20分にはロック西村咲都希が左中間にトライし、その5分後には谷山が鋭利するどいランでトライを重ねた。

 前半30分には、ラインアウトからのモールを押し込んで、またもナンバー8の向來がインゴールにボールを押さえた。ゴールも決まって31-0と大量リードした。

 

◆前半のハンドリングエラーはわずか4つ

 

 何といっても、FWとバックスの連携がとれていた。

 連携がとれると、自ずとハンドリングエラーも減っていく。

 古賀監督は「プレーの精度が高まりました」とうれしそうだった。「前半のハンドリングエラーは4で、後半の途中からちょっとミスが増えたんですけど、前回(11月23日のPieces戦=〇31-14)より半分以下になっていました。前回のハンドリングエラーは18で、うち10がバックスだったんです」

 

◆谷山のキックとセットプレーが安定

 

 確かに後半はハンドリングミスが出始めたが、SO谷山のキックとセットプレー(スクラム、ラインアウト)が安定していたので、危なげない試合運びだった。ラインアウトもマイボールは100%だった。向來主将はエライ!


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 後半6分、SO谷山からの飛ばしパスを受けたFB大内田が切れ味鋭い好ダッシュでポスト下に飛び込んだ。福岡・修猷館高校の後輩となる逸材のプレーに思わず、「ナイス・スピード」と小声で言ってしまった。

 後半36分は途中から交代出場のウイング島本星凛がトライ、ロスタイムにはセンター水野小暖が約50メートルを走り切った。スタンドでおっさんの隣に座った会計担当の副部長が、会計役の独走トライに「オ~、行った、行った~」と狂喜乱舞していた。

 

◆FWとバックスが本音をぶつけ合って一体感が生まれる

 

 チームに一体感が生まれたのには理由がある。

 実は、前回の試合の後、チームミーティングでFWとバックスそれぞれが本音をぶつけ合った。古賀監督が説明してくれた。

 「要は、FWとバックスのコミュニケーションですよ。この前の試合では、FWがバックスにボールを出さず、22メートルあたりからピック&ゴーでボールキャリーしていたんです。そんなこと、ここから先の強いチームには通用しないよねって。チームがひとつになるためには、ぶつかり合いを恐れず、ちゃんと言い合いをしなきゃいけませんから」

 一言でいえば、チームに互いの信頼感が強くなったのだろう。ディフェンスだって、チームのためにみんな、からだを張った。とくにフッカー浦山亜子の猛タックル、ウイング島本のしつこい片手タックルには見ていて心が震えた。

 「覚醒」しましたか? と聞けば、向來主将は、「はい」と即答した。

 「楽しかったです。どういうラグビーをするのかでちょっと悩んでいたんですけど、それが無くなりました。FWとバックスのリンクのところとかが課題だったんですけど、そこをずっと練習してきました。この流れのまま、自分たちが好きなラグビーというか、自分たちがやりたいラグビーを続けていきたい」

 しばし、間をおいて、「そして」と言葉に力を込めた。

 「残り全部勝てば、全国大会に行けると思うので、さらに加速していきたいと思います」

 

◆メディアも注目。谷山「信頼してゲームメイクを任せてくれた」

 

 そういえば、某テレビ局が特番制作のため、日体大女子を追いかけている。

 女子ラグビーの人気拡大につながれば、と日体大としても全面協力を約束した。試合後、選手たちをテレビカメラが追う。エースの谷山は、インタビューも受けていた。取材を受ければ、責任感が増し、人間的にも成長する。

 ナイス・キック!と言えば、谷山は「コンバージョンはまあまあだったんですけど」と漏らし、こう続けた。

 「普通(フィールド)のキックはもうちょっと改善できると思います。距離は出ていたので、よかったです。(自分の出来は)ちょっと合流の時期が遅れたんですけど、みんなが信頼して(ゲームメイクを)任せてくれたんで、その責任は果たせたのかなと思います」

 

◆最優秀選手賞の峰愛美「もらえると思っていなかったので、とてもうれしい」

 

 この日の『スター・オブ・ザ・マッチ』(最優秀選手)に選ばれたのは、4年生の右プロップ、陽気な峰愛美だった。表彰式で整列していた時、名前が呼ばれると、日体大フィフティーンから歓声と拍手が沸き起こった。


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 スター何とか、おめでとう!どうですか、とストレートに聞けば、峰は「うれしいです」と満面に笑みを浮かべた。縁の下の力持ち、地味なポジションだ。でも、一生懸命にスクラムを組んで、ブレイクダウンでからだを当て、タックルに行った。

 「自分が(スター・オブ・ザ・マッチを)もらえると思っていなかったので、とてもうれしいです。今日は学生ならではの力を出せたと思います。これから社会人の方々と当たりますので、これまでやってきたことを学生らしく、ずっとやりつづけたいと思います」

 学生らしく、とは?

 「やっぱり丁寧さだったり、アグレッシブさだったり、です。私たちは、サイズは小さいですけど、アグレッシブなアタックやディフェンスで対抗していきたいと思います」


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 完勝ながらも、もちろん課題はある。

 古賀監督は「疲れてきたときのゲームマネジメントですね。前半、すごくいいペースで行っていたんですけど、後半のゲームコントロールが甘くなりました」

 これから、強い相手が続いていく。チーム間に『信頼』は芽生えた。あとはプレーの精度を高め、学生らしく、ひたむきにチャレンジあるのみである。


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                       (文・写真:松瀬学)

 
 

 ラグビー文化といえば、ダイバーシティーだろう。いわば多様性。多彩な個性から成る日本体育大学が、幾つかのクラブのメンバーで編成される「Pieces(ピーシーズ)」を31-14で下し、関東女子大会初勝利をあげた。

 「スカッと勝つ」、これがこの日のテーマだった。2週間前の開幕戦はミスが相次いで惜敗していたからだろう、ハンドリングなど基本プレーを徹底練習してきた。だが、試合後、古賀千尋監督は苦笑いを浮かべながら、「スカッとしません、全然」と言った。

 「14回ですよ、14回。前回は13回。ハンドリングエラーが多過ぎます。そこしか練習していなんじゃないかというぐらいやってきたんですけど、まあ、ミスが多くて。ほんと、フラストレーションがたまりますね」


 ◆ブレイクダウンは改善。SOMの八尋「がんばりました」

 

 日曜の11月23日、勤労感謝の日だった。横浜・青葉台の日体大健志台キャンパスのラグビー場。曇り空、黄色や深紅に周囲の木々が色づいている。午後2時キックオフ。スタンドには学生の保護者や友人たちの姿もあった。紺色と水色の縞模様の日体の小旗がバタバタ、揺れる。「ニッタイダイ、がんばれ~」

 日体大は、接戦を落とした初戦の経験を活かし、ブレイクダウンは改善されていた。ひたむきさとハードワークは相変わらずで、2人目の寄りがはやくなっていた。確かに相手チームのチーム力もあるが、初戦で12回も許したターンオーバーはこの試合、2回に減った。意識していたのだろう、とくにFWには結束力が強まっていた。

 前半3分、PKをタッチに蹴り出し、そのラインアウトでナンバー8の向來桜子主将が捕球、モールをぐいぐい押していく。最後は、ピンク色のヘッドキャップをかぶった1年生フッカー、浦山亜子がインゴールにボールごと飛び込んだ。難しい位置のゴールキックを、これまた1年生のFB杉本姫菜乃(ひなの)が蹴り込んで、7-0と先制した。


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 そのあと、1トライを返されたが、前半19分、またもラインアウトからのモールを押し込んで、向來主将がサイドに持ち出してトライした。前半35分には、ゴール前のPKからFWが突進し、ラックの右をどんどんと突いて、左プロップの八尋瑛(あきら)がど真ん中にトライを加えた。


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 八尋は、試合の「スターオブザマッチ(SOM)」に選ばれた。いつもニコニコの陽気なキャラ。「がんばりました」と、太陽のごとき笑顔で振り返った。

 「ボールを持っていくのが好きなんです。今日は(アタックの)基点をつくるのが目標だったんですけど、それはできたかなと思います。はい」

 よく顔をみれば、左目の下に赤い傷跡があった。聞けば、激しいコンタクト練習でできたものらしい。ところで、「スカッとしましたか?」。

 「試合全体ではスカッとできなかったけど、個人的にはスカッとできました。FWはボールをとれたし、ピック・アンド・ゴーでトライをとれたし。ホームでこのようなカタチで終われてうれしいです」

 

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 ◆厳しいディフェンス、後半はトライを許さず

 

 前半終了間際にFB杉本がゴール前のピンチでキックチャージを食らって、トライを返された。ショックだったんだろう、泣き顔をみると、こちらもつらくなる。こんな日もある。まだ1年生、この悔しさを成長の糧にすればいい。

 ハーフタイム。前半を21-14で折り返した。

 日体大は後半、頭から4人を入れ替えた。とくに日本代表クラスのプロップの峰愛美、センター畑田桜子の4年生がゲームを締めていく。ディフェンスに厳しさが出てきた。後半は、相手にゴールラインを割らせなかった。

 攻めては、後半21分、頼りになる向來キャプテンがラックの左サイドに持ち出してトライ、後半34分には連続攻撃から、白色ヘッドキャップの八尋がまたもトライをもぎ取った。八尋さん、絶好調~!

 

 ◆チームMVPの西村「ミスなく、がんばりました」

 

 チームMVPの「ゴールドシール」に選ばれたのが、FWのプロップ八尋、フッカー浦山、そして3年ロックの西村咲都希(さつき)だった。愛称が「さっちゃん」。

 試合後、西村は八尋と並んでクールダウン。

 西村は「私も、がんばりました」と笑い、冗談口調でつづけた。

 「トライをとれなくても、お仕事はちゃんとしたと思います。自分はミスなしだし。はい、ミスなく、がんばりました」

 そういえば、スタンドで西村パパは一番前に出てきてスマホで娘たちの円陣の写真を撮っていた。その姿に心を動かされる。話を聞けば、「小さいころから娘のラグビーに楽しませてもらっています」とうれしそうに言った。

 「さっちゃんが、試合でがんばる姿がいいんです」

 娘の西村はがんばり屋なのだ。昨年はケガで秋の公式戦には出場できなかった。いまも怪我を抱えているようだが、試合でガッツあるプレーを見せている。「最後までがんばります」と健気に言うのだった。


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 ◆36歳のPiecesロック・村上「モチベーションはラグビー仲間」

 

 ところで、相手のPiecesは、ダイバーシティーの象徴のようなチームである。数チームの合同チーム。この日のメンバー表をみれば、年齢は18歳から36歳までの選手が並んでいる。共通しているのは、ラグビーが大好きだということだろう。

 36歳の村上愛莉さん(Brave Louve=ブレイブルーヴ)は、ロックでからだを張り続けた。ボールを持てば突進し、ブレイクダウンでは献身的な動きで奮闘した。

 なぜ、この歳でラグビーを? 

 「モチベーションはラグビー仲間です。自分はうまくないですけど、仲間と一緒にラグビーをするのがとても楽しいんです。(からだで)痛いところがいっぱいなんです。でも、周りはいい子ばっかりで。みんな、年下ですけど」

 実は、村上さんは異色の経歴を持つ。高校、大学、実業団とバスケットボールに熱中していたが、26歳でラグビーの魅力を知り、ラグビー転向を決めた。横河武蔵野アルテミ・スターズに入団、2019年7月には日本代表サクラフィフティーンのオーストラリア代表戦に途中出場を果たし、キャップを獲得した。

 実は村上さんは「LGBTQ+」の理解促進をめざすNPO法人の理事も務め、日体大でも「ダイバーシティー&インクルーシブ」に関する講義の講師もしている。即ち、多様性を大事にしてもいるのだった。

 村上さんは、日体大を女子ラグビーの牽引車としてレスペクトしている。「(日体大の選手は)みんな、がんばって練習して、ちゃんとした基盤があるし、応用もできるんです。古賀さんが愛情を持って学生を指導しているのでしょう。試合をすると、とても勉強になります。自分としては、日体大は絶対的な存在です」

 ひと呼吸をおき、「恐縮ですが」と漏らし、日体大にエールを送ってくれた。

 「学生時代は有限だから、一生懸命にラグビーに打ち込む価値は絶対、あるんです。古賀さんの言っていることを追求するとか。めちゃくちゃきついと思うけれど、思い切り、ラグビーに打ち込んでほしい。楽しんでほしい」

 

 ◆古賀監督「課題は継続すること」、向來主将「意識を変えよう!」

 

 スカッとしなくとも、古賀監督はポジティブだった。

 「とりあえず、初勝利はできました。ボーナスポイントもとれました。課題は(プレーを)継続すること。また、がんばります」

 グラウンドの隅に全部員の円陣ができた。


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 勝利で終えたからだろう、みんなの表情に安ど感が浮かぶ。でも向來キャプテンは、「勝っていかないと、(上位4チームの)全国大会には行けないよ」と厳しい口調で言った。

 「行きたいなら、自分たちの意識を変えないと。ずっと、このままなら、フラストレーションのたまったラグビーになるよ。できないことじゃない。できる人しかここにはいないと思っている」

 ひと呼吸おき、言葉に力をこめた。

 「やろう!」

 力強いみんなの返事が紅葉の木々に溶け込んでいく。チームは発展途上。学生チームだもの、伸びしろは無限大である。


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                  (文:松瀬学、写真:善場教喜さん) 

 
 

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