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まっちゃん部長日記

まっちゃん部長日記@太陽生命女子セブンズ熊谷大会


 ◆古賀監督「選手はハダで感じることができた」

 

 酷暑、猛暑、炎暑。もう暑くて、暑くて。7人制女子ラグビーの年間王者を決める太陽生命ウイメンズセブンズシリーズの第1戦、熊谷大会が6月21日、22日、灼熱の埼玉・熊谷ラグビー場であった。選手にとっては、フライパンの上でプレーしているような暑さだっただろう。

 「暑かったですね」。6位スタートとなった日体大の古賀千尋監督はそう、声を絞り出した。空調の効いた部屋の冷たい壁に火照ったほおを付け、サバサバした口調で続けた。

 「大会を通じて、(シニアの強さを)ハダで感じることができました。どのくらいのプレーの質でやらないといけないのか、どのくらいのスピードでやらないといけないのか。学生がそれを体験できたことは収穫ですね」

 それにしても暑かった。暑過ぎた。古賀監督は「異常気象でしょうね、これ」と漏らした。この暑さの中、よく選手はがんばった。でかくて強いシニアチームにチャレンジし続けた。今年のチームスローガンが『All Out。やるか、やるか。』である。ふだんの練習で積み重ねてきたことに自信を持って、全てを出し切る。やり切るしかないとの意。

 「学生はオールアウトしましたか?」と聞けば、監督は明るく言い放った。

 「そりゃオールアウトはしていたでしょう。ふらふらになるまでやっていたので。十分していたと思いますよ、みんな」

 そして、言葉に自信を込めた。

 「次の北九州大会まで一ヶ月。そこまでに、すべての質を一段階、二段階、三段階レベルアップしていければいい。スピードアップもですね。質とスピードというところが今後のカギだと思います」

 

 ◆最後のグランドファイナル札幌大会で総合順位を決定

 

 このセブンズシリーズの開催時期とフォーマットは今年、大きく変わった。開催時期が第1戦は昨年より2カ月半遅くなり、最終第4戦がグランドファイナル札幌大会緯として8月17日に実施されることになった。結果、猛暑下の試合が多くなる。正直言って、選手ファーストではなかろう。

 フォーマットは、昨年の4大会の通算ポイントで総合順位を決める方式ではなく、ことしは最終第4戦をグランドファイナルとして、そこで総合順位決定トーナメントを行うことになった。第3戦までのポイントの合計数の上位8チームが札幌大会で総合順位決定トーナメントに進むことになる。つまり、上位8チームに食い込めば、札幌大会での優勝のチャンスは残ることになる。チーム力が急速にアップしていくだろう日体大にとっては有利な変更と言っていい。

 

 ◆37度。炎天下の5位決定戦。髙橋夢来が70㍍好走、谷山がトライ!

 

 ゲッ。陽射しが直撃する観客席でスマホの温度計を見れば、なんと「37度」となっていた。最終日の22日、日体大としては2日間で6試合目のファイナルマッチ、5位決定戦。すぐそばに陣取る日体大のノンメンバーや保護者たちの大声がグラウンドに降り注ぐ。

 「ニッタイダイ、ニッタイダイ、ニッタイダイ!」

 遠く離れた左側の観客席からは、黄色いYOKOHAMA TKMのTシャツを着た応援団のメガホンをたたく音が聞こえてくる。

 「ティーケーエム! ティーケーエム」

 うだる暑さの中、午後2時44分、キックオフ。

 TKMの主軸のフィジー代表、アカニシ・ソコイワサが何度も爆走する。でも、“ねえさん”ことOGの日本代表、堤ほの花(ディックソリューションエンジニアリング)らがしつこいタックルで前進を阻む。教育実習から戻った高橋夏未、ゲームキャプテンの持田音帆莉(ねおり)、闘志の塊の髙橋夢来(ゆらら)、そして日本代表の谷山三菜子がボールをうまくつないで反撃する。互角の展開が続く。

 前半4分過ぎ。自陣でスクラムから連続攻撃をされ、タックルポイントの右サイドを日体大OGの人羅美帆に突かれて先制トライを許した。

 日体大がすぐに反撃。自陣からボールをつなぎ、髙橋夢来が70メートル近くを好走した。ナイスラン! ゴールライン手前でソコイワサにボールを奪取されたが、その外国人選手に持田がナイスタックル。こぼれたボールを髙橋夢来が好捕し、内側にフォローした谷山にパス、そのまま右中間に走り込んだ。ゴールは決まらず、5-7で折り返した。

 

◆ハーフタイム「最後に勝つのはニッタイダイ」との檄も

 

 たった2分間のハーフタイム。

 グラウンドの日体大の円陣の上にはスカイブルーのでっかい日傘が差された。直径2.6メートル。ことしの夏の暑さ対策として古賀監督が購入した「チーさんのビッグパラソル」だった。選手たちは冷たい水やタオルでリフレッシュ。古賀監督はこう、檄を飛ばした。

「最後に勝つのはニッタイダイだよ」


 

◆日体らしいつなぎで1年生の藤原郁がトライ!

 

 後半、日体大はキックオフから攻めた。1分過ぎだった。マイボールのスクラムを押されながらも、SH役の高橋夏未がこぼれたボールをうまく拾い前に出た。谷山から髙橋夢来が鋭利するどいランでつないでいく。タックルを受けると、ボールを生かし、谷山から左にフォローした1年生の藤原郁(かおる=京都成章高)が左ライン際を脱兎のごとく走りきった。10-7と逆転した。

 だが、直後、持田のタックルをパワフルな走りで引きちぎったソコイワサが大幅ゲインし、これまた日体大OGの堀川侑愛が逆転トライをマークした。悔しいけれど、日体大OGはあちらこちらでがんばっているのだ。

 10-14でノーサイド。後半途中に交代出場した水野小暖(こはる)は言った。

「チーさんの言葉を信じて、勝つしかないと思ってプレーしました。勝てなかったけれど、私たちはここからぐんと成長します、絶対に」

 

◆円熟の堤ほの花「全然やれている部分はあった」

 

 この日の太陽のように明るい堤ほの花はいつだって元気だ。19日に28歳になったばかりだった。「暑過ぎました」と素っ頓狂な声を出した。

 「しかも最終戦が一番暑いからしんどかったですね」

 小柄でも、やはり堤がいると、チームに安定感が加わる。チーム力が一段、アップする。経験だろう、言葉には自信があふれている。

 「パワーでも、全然、やれている部分はあったんで。修正すれば、全然勝てる相手が増えてくるんじゃないかと思います。まあ、差があるチームもありましたけど、まだ先もあるので、がんばっていけば、もっとやれると思います」

 それにしても、タックルがいいですね、と声を掛ければ、パッと笑顔になった。

 「ありがとうございま~す。ディフェンスは自分の得意分野ですから。アタックも上手になりま~す」

 なんと表現すればいいのか。自然と周囲の空気を明るくするのだった。

 

◆準々決勝ではパ―ルズに一矢報いる。北海道バーバリアンズには快勝。

 

 一日目のプール戦は自衛隊体育学校PTS、横河武蔵野Artemi-Starsに連勝したが、3戦目の三重パールズに0-33で完敗した。

 2日目最終日では準々決勝でまたも三重パールズと対戦し、5-29で屈した。雪辱は成らなかったけれど、一矢(いっし)は報いた。PKからの速攻で谷山から堤、再び谷山とつなぎ、パスダミーで相手を振り切って、左中間に飛び込んだ。(パ―ルズが優勝)

 5-8位決定戦に回り、初戦の北海道バーバリアンズ・ディアナには42-17で快勝した。ふだんの練習で積み重ねてきた、日体大らしい走ってつなぐ「ランニングラグビー」が威力を発揮した。ひとり1人がギャップをついたり、ポジティブに仕掛けたりして、連携もとれていた。「いいぞ、日体大!」ときたもんだ。

 

◆谷山「悔しいです」

 

 すべての試合が終わった後のミックスゾーン。谷山は全国紙の記者のインタビューを受けた。ひたいから汗が流れ落ちる。エライもんだ。疲れながらも、ハキハキとした口調で応えていた。

 「自分でできたところと、できなかったところがはっきりしたと思います。ワイドに展開して得点につなぐことはできたので、そこは継続してやっていきたいなと思います。ディフェンスでも、アタックでも、コネクトの部分で反省点があったので、そこは修正していきたいなと思います。バーバリアンズ戦では自分たちのアタックができて、少し自信になりました」

 代表としての国際経験は力になっていますか?と聞かれると、谷山は「はい。そうですね」とうなずいた。流れる汗は止まらない。

 「でも、この大会でも外国人がいっぱいいて、試合のレベルはあまり変わらないと思っています。一戦一戦、自分のベストを尽くしていければいいと思います」

 インタビューがー終わる。どうだった?と声をかけると、少し顔をゆがめた。

 「悔しいです」

 

◆教育実習明けの高橋夏未「体重が3キロは落ちました」

 

 高橋夏未はやはり、タフである。3週間の教育実習明けでも運動量の多さとランのキレがいぶし銀の光を放った。「暑かった~」と明るく言った。

 「体重が3キロは落ちました。教育実習で練習は3週間ぐらいしていないので、それを考えたら、割と動いていましたよね。個人的には(チーム戦術を)ちゃんと理解して試合に臨めるのかどうか不安でしたけど・・・。チームの流れが悪かった時、その流れを変える言葉だったり、行動だったりで見せることができなかった。この経験を踏まえて、次は絶対、後悔しないよう、勝ちにこだわってやっていきま~す」

 

◆1年生の齋藤「勉強になりました」

 

 とくに1年生にとっては、よき経験となっただろう。杉本姫菜乃(栃木・國學院栃木高)の負傷は痛かったけれど、齋藤紗葉(すずは=関東学院六浦高)、浦山亜子(大村工高)、藤原にとってはよき“洗礼”となっただろう。

 齋藤は初々しかった。目がキラキラだ。大会の感想を聞けば、コロコロと笑った。

 「はい。勉強になりました。はい。フィジカルの差を感じました」

 

◆ゲーム主将の持田「次の大会ではぜんぶ勝ちます」

 

 冷たいアイスバスで生き返ったゲーム主将の持田もまた、開口一番、「暑かったですね」と笑顔で言った。 

 「2試合目(北海道バーバリアンズ戦)が一番、ニッタイらしい試合でした。FWが前に出て、アタックを仕掛けられたら、アグレッシブなニッタイらしいプレーができるんです。最後のTKM戦はできてないわけではないんですけど、ちょっとかみ合わないところがあって、(トライを)なかなか取り切れませんでした」

 第2戦の北九州大会まで1カ月ほど期間が空く。

 「どの試合も決して勝てないことはなかったと思います。1カ月、徹底的に練習して、次の大会ではぜんぶ、勝ちます。絶対に」

 いいぞ、いいぞ。その意気である。

 最後に聞いた。「オールアウトはできましたか?」と。

 「オールアウトはしたけれど、持っている力を全部は出し切れなかったと思います。う~ん。まだまだ、いけたな」

 学生チームは伸び代が大きい。まだ成長過程。この経験を糧とし、己自身にチャレンジを続けることができれば、チーム力が飛躍することになる。ワクワクするじゃないの。


(筆:松瀬学、写真:善場教喜さん)

 
 

まっちゃん部長日記@熊谷ラグビー場<Yahoo!から転載>


古賀監督「やっとでチームになってくれた」

 これぞ大学王者のプライドだろう。『Women`s College Sevens 2025/第12回大学女子7人制ラグビー大会』。日本体育大学が最後に「チーム」となり、決勝で立正大に逆転勝ち、4年連続の優勝を遂げた。

 信は力なり、である。互いを信頼する。アタックでつなぎ、ディフェンスでは結束して前に出る。日体大の古賀千尋監督は安堵の表情を浮かべた。

 「最後、やっとでチームになってくれました。勝利を重ねるごとに、お互いの意思疎通がとれるようになっていった。“あ・うん”の呼吸が少しずつ、生まれていきました」

 ひと呼吸おく。言葉に実感をこめた。

 「“最後に勝つのは日体大というのを信じてやろうね”と、ずっと選手たちに言ってきました。チーム間の信頼が芽生えた大会でした。(決勝の立正大は)素晴らしかった。ええ、勝てて、よかったです」

 


 ◆決勝前のウォームアップ「やるか! やるか!」

 

 8日、猛暑の熊谷ラグビー場。大学のチームは当然ながら、毎年メンバーが入れ替わる。新しいシーズンが始まった。その初めての公式戦。近年の学生の大会らしく、スタンドには保護者が多く、目に付いた。

 今年の日体大のチームスローガンが『All Out やるか、やるか。』である。ふだんの練習で積み重ねてきたことに自信を持って、全てを出し切る。やり切るしかない。その覚悟はあるのか、そういった意味だろう。決勝戦前の屋内のウォーミングアップ場。円陣では大声を出し合った。「やるか! やるか!」

 主将の大黒柱、向來桜子は女子15人制日本代表の活動のため、大会は欠場した。この日は、ウォーター係としてサポートに回った。決勝前、向來はこう言った。「楽しみな選手ばかり。(決勝戦は)やってくれるでしょ」

 勝負の決勝戦。スタンドでは日体大のノンメンバーや保護者の応援団の群青色の小旗がばたばたはためいた。かけ声が熱風にのる。「ニッタイダイ! ニッタイダイ!」

 

 ◆古賀監督、ハーフタイム「丁寧にやろう」

 

 相手は立正大学。その闘志がすさまじく、気圧された日体大はハンドリングミスを重ねた。ミスしたボールをオープンにつながれ、先制トライを奪われた。

 すかさず反撃。2年生のエース、7人制日本代表の谷山三菜子、1年生の齋藤紗葉(すずは=神奈川・関東学院六浦高)がトライを重ねたが、前半終了間際に同点トライ(ゴール)を奪われた。14-14で折り返した。

 たった2分間のハーフタイム。古賀監督はディフェンスのシステムのポイントを指示し、こう言葉を足した。

 「丁寧にやろう」

 

 ◆ルーキー大内田が劇的トライ、そして3人の力の結束でターンオーバー

 

 だが、両チームとも、2日間で6試合目、体力はもう限界にきていた。疲れはハンドリングにも出る。勝負の後半が始まった。

 後半の4分過ぎ。中盤でターンオーバーを許し、トライを奪われた。14-19とリードされた。時間が刻々と過ぎていく。日体大が猛反撃に転じた。ラスト60秒。相手にイエローカードが出る。日体チャンス。

 中盤のペナルティキックから高橋夏未が左に切り返した。谷山がディフェンスの隙間をするどく突いて、左オープンの1年生の大内田葉月(福岡・修猷館高)にパス。アングルを少し変えてまっすぐ疾走し、中央に飛び込んだ。トライ! 見ていて、心が震えた。

 谷山のコンバージョンキックが決まり、21-19と逆転した。でもリードはわずか2点。残り30秒。立正大の反撃を浴びた。流れが相手に傾く。試合終了を告げるホーンは鳴ったが、相手の攻撃が続く。

 オープンに回されたところで齋藤が懸命のタックル。ボールがダウンボールされた瞬間、ポイントに大内田、高橋が殺到した。

 すぐに立ち上がった齋藤と大内田、高橋がポイントを乗り越えていく。タッチライン際に3人の力と意志が集中した。ターンオーバー(ボール奪取)に成功し、高橋がボールをタッチラインの外に蹴り出した。

 

 ◆選手の喜びも控えめ。谷山「まだ弱い」

 

 ノーサイド。スタンドのノンメンバーたちは歓喜に沸いた。「ニッタイダイ、ニッタイダイ」。でも、グラウンドの選手たちは喜びも控えめだった。大会MVPに選ばれた谷山は、「優勝はうれしいですけど、まだ弱いなというのは感じました」と言った。

 「決勝戦は失点ゼロで抑えようと話をしていたので、先制されて、ショックを受けたというか、少し気持ちが下がった部分があったんです。切り替えていけたのはよかったかなと思います」

 この大会の目標は日体大として圧倒的な強さを見せることだった。でも、苦戦した。

 「自分のミスが重なって…。自分の弱さが出てしまいました。最後まで頑張れたのは、ふだんの練習と、代表で学んできたことのお陰です。最後にチームになりましたが、まだ個々でやっている感じです。太陽生命(ウィメンズセブンズシリーズ/6月21日開幕)に向けて、2週間で課題を修正していきたいと思います」

 そういえば、谷山はロッカールームの掃除のあと、その道具を片付けていた。プレーだけでなく、人間的な成長も垣間見えたのだった。

 

 ◆ルーキー大内田「危なかったです」

 

 殊勲の大内田は、「危なかったです」と正直だった。

 「日体大に来て、ほんと、よかったです。ラグビー面では、成長できています。まだまだ、“これから”ですが。いろんなことを吸収できると思います」

 決勝では、大内田ほか、齋藤、杉本姫菜乃(ひなの=栃木・國學院栃木高)のスーパールーキーたちが光り輝いた。

 杉本は言った。

 「初めての公式戦で緊張したんですけど、先輩方に助けられて、伸び伸びプレーすることができました。まだまだなんで。太陽生命でも優勝できるよう頑張りたいです」


 

  ◆ゲーム主将の持田「学生ナンバーワンは負けてはいけない」

 

 この大会のゲーム主将を務めたのが、がんばり屋の持田音帆莉(ねおり)だった。ガラスの優勝トロフィーを持ち、顔をほころばせた。「力を出し切りましたか?」と聞けば、「う~ん」と答えに窮した。

 「やる気が空回りというワケじゃないですけど、自分たちがやりたいことをできずに終わってしまう試合が多くて。最後は僅差で勝たせてもらいましたけど、自分たちが納得できる内容にはならなかったですね」

 でも、大会4連覇。勝ち切った理由を聞けば、「プライド」と即答した。

 「私たちは学生ナンバーワンだから、絶対に負けちゃいけなかったんです。そこだけは絶対に譲れません。やっぱり、プライドがみんなの中にありました。それがたぶん、勝因だと思います」



 プライドの結晶が、最後のブレイクダウンでのターンオーバーだったのだろう。きつい時ほど、ふだんの練習の成果や日常の精進が出るものだ。

 スポーツの世界において、勝って反省は理想だろう。太陽生命ウィメンズセブンズシリーズでは、屈強な社会人選手や外国人選手で編成されたシニアチームが相手となる。日体大ユニコーンズはまだ、成長途上。

 今度こそ、All Outである。「やるか、やるか」。そう、立ち上がりから、やるしかあるまい。(筆:松瀬学、写真:善場教喜さん)



 
 

まっちゃん部長日記@保土ヶ谷公園ラグビー場


 涙、涙のノーサイド、完全燃焼のラストゲームである。巳年が明けた5日、日本体育大学ラグビー部女子は、社会人クラブの強豪、東京山九フェニックスに敗れた。日体大にとっては本年度の最終戦。7-29の完敗も、学生らしい「ひたむき」なラグビーでみる者の心を揺さぶってくれた。



 ◆夕日に向かって最後の猛烈アタック

 

 15人制ラグビーの『OTOWAカップ 関東女子ラグビー大会』。横浜郊外の小高い丘の上にある保土ケ谷ラグビー場だった。最後の最後、日体大はひとつになって、薄いオレンジ色に染まった夕日に向かって攻め続けた。敵陣に攻め込み、ペナルティキックを相次いで奪う。すぐにアタック。ポストまじかにラックをつくり、左サイドにフォワードがボールを低く持ち出す。タックルを受けても倒れない。サポートと一緒に踏ん張る。

 もういっちょ左、そして右に。その都度、濃紺と水色のダンガラジャージの塊ができる。ぐぐっとゴールラインに向かって動く。あと1メートル。「いけぇ~、いけぇ~」。絶叫に近い声援がスタンドから飛ぶ。もういっちょ左、もういっちょ右。フィジカル優位の社会人も必死だ。もちろん、日体大も必死。意地と意地がぶつかる。

 引きちぎられたグレーのヘッドキャップが宙を舞う。数分間は続いただろう。突然、日体大は右オープンに一度振り、ラックから今度は左へ。名スタンドオフの4年生、大内田夏月が鋭利するどいランで左に切れ込み、ラックから少し離れた位置からナンバー8の向來桜子がポスト左に飛び込んだ。トラ~イ~。やった~!

 

 ◆向來が4年生に贈る惜別のトライ

 

 電光掲示板の数字は「45:35」だった。ラグビーは40分ハーフだから、ロスタイムが5分余りも続いたことになる。歓喜の爆発。向來がガッツポーズする。みんなが笑顔でハイタッチ。スタンドの日体ファンは泣いていた。

 「みんなで取ったトライです」と、向來は言った。「あれは、フォワードが我慢して、バックスも取りきろうとしながらもちゃんとキープしてがんばってくれました。ちーさん(古賀千尋監督)が練習で言っていた、ディフェンスが寄った後は外が空いているというアドバイスを思い出したのです。それも、みんなががんばってくれていたから、そんな考えがふっとよみがえったのかなと思います」

 いわば卒業する4年生に贈る惜別のトライか。頑張り屋の集まりの4年生にメッセージを、と聞けば、元気よく応えてくれた。

 「4年生には、もう卒業しても大丈夫です、といった感じのトライだったのかな。安心してもらうような。4年生、ありがとうございました」

 

 ◆選手も保護者の一緒に泣いた

 

 試合後のセレモニー。向來が試合の『モスト・インプレッシブ・プレーヤー』に選ばれた。マイクに向かって、こう声を張り上げた。

 「日体大はこの試合、ラストだったんですけど、一番楽しめた試合だったのかなと思います。これから、また新チームを作り上げていくんですけど、今日の試合で得たものを力をして、イチ、ニイ、サン年生でがんばっていきたいと思います」

 スタンドの保護者、ファンの拍手が寒風に乗る。

 持てる力を出し切った日体大の選手たちが、スタンドの前に整列している。主将のフランカー樋口真央は涙声で号令をかけた。

 「みなさん、ありがとうございました。礼!」



 樋口だけでなく、4年生のウイング、梅津悠月も涙を流していた。ふとスタンド席をみれば、樋口や梅津らのご両親も一緒に泣いていた。ああ親子の情はかくも深い。

 余談ながら、ラグビー場から最寄りの駅への帰り道、三重から駆け付けた樋口のご両親と偶然、一緒になった。

 毎試合のごとく、試合会場に来ていただき感謝です、大変でしょう、と言えば、樋口パパはこう、しみじみと漏らした。幸せそうに。

 「いえいえ。いろんなところに連れていただき、楽しい思いをさせてもらいました」

 

 ◆古賀監督「日体大のラグビーを追求しようという姿勢はあった」

 

 日体大はこれで関東大会では2勝4敗となり、上位2チームによる全国大会には進出はできなかった。ひと言で言えば、力負けである、フィジカルで圧倒された。東京山九はパワフルだった。例えば、55キロの4年生スクラムハーフ、山本彩花が、相手の交代プロップ、90キロの岸本彩華に低くタックルにいく。つい小林一茶の有名な俳句が口をついた。<やせ蛙 負けるな一茶 これにあり>

 しかも、相手チームには日本代表のFB松田凛日ら日体大卒業生もいる。そりゃ、強いに決まっている。でも、日体大は果敢に挑戦した。相手に挑みかかる気概は最後まで衰えなかった。古賀監督は、やさしい口調でこう漏らした。

 「最後まで自分たちが求める日体大のラグビーを追求しようという姿勢はありました。そこはうれしかったですね」

 試合テーマが『伝説のユニコ』。

 「まあ、日体大らしい連続攻撃といった感じでしょうか。ボールがどんどん動いて、見ている人がワクワクするような」

 例えば、前半の序盤の日体大の連続攻撃は感動的だった。順目にテンポよくつないで、大きく左右に揺さぶる。FW、バックス一体となった攻めは、20フェーズ(局面)は続いただろうか。最後は4年生ロックの西村澪が突進してインゴールになだれ込んだ。トライかと思いきや、相手にホールドされてノートライとなった。惜しかった。とっても惜しかった。

 試合後、西村は明るかった。涙はない。

 「最後、向來がトライをとってくれてよかったです。楽しかったです」

 再び、古賀監督の試合総括。

 「いいところもたくさんあった。タックルもがんばっていました。ただ、エッジのところで向こうにいいランナーがいたので、そこでちょっと崩されたかなという感じです。あとペナルティーが多かったかな」

 ペナルティーは相手8個に対し、日体大は11個を数えた。スクラム、ラインアウトはやられ、相手プレッシャーにハンドリングミスも出た。



 古賀監督がつづける。

 「とくにディフェンスの部分では苦労する部分が多かったんですけど、局面、局面で心揺さぶるようなタックルも見られました。点差は離れたけれど、いいプレーもたくさんあったと思います」

 

 ◆1年総括、古賀監督「出場辞退か、練習強度か」

 

 それでは、1年の総括は。

 そう聞けば、古賀監督は「なんだろう」と漏らし、少し考えた。

 「出場辞退をとるか、練習強度をとるか、その二択でした」

 厳しい1年だったのだろう。昨年のチームからレギュラー陣が半分卒業し、けが人も続出した。指導者としてはさぞ頭を痛めたことだろう。

 「練習強度をあげれば、すぐに怪我人がを出てしまう状態で、これ以上人数が減れば出場辞退を検討せざるを得ない状況だったので、そう練習強度を上げられない状況が続いていました」

 つまるところ、厳しい練習に耐えうるからだづくりが課題か。現実問題として、パワーでは圧倒的に社会人にはフィジカルで負けている。どう克服していくのだろうか。

 「からだづくり、食事、そういうところを含めて、グラウンド外での地道な努力を、日々、どこまで本気で積み重ねられるかどうかでしょう」

 

 ◆樋口主将「長いようで短いような…」

 

 それにしても、卒業する4年生はよく頑張ってくれた。

 160センチ、66キロの“小さな闘将”、樋口主将は最後もいっぱい泣いた。よほどタックルをしまくったのだろう、大腿部には擦り傷(昭和の時代、これをビフテキと称した。めちゃくちゃ痛い)をつくっていた。

 3年生までは怪我も多かったけれど、本年度は主将としてチームをリードした。どんな1年間?と聞けば、「う~ん」と漏らし、「聞かないでください。泣いちゃう。う…」。すみません。で、少し考え、こう言葉をつづけた。

 「1年間、結構苦しい思いのほうが多かったんですけど…。最後、みんなで80分間、戦えて、よかったです。とくに向來ががんばってくれました」

 大学4年間は?

 「長いようで短いような…。下級生の頃は長く感じたんですけど、3年生になったら、あとはあっという間でした」

 

 ◆卒業する4年生の青春のカケラは

 

 では卒業する4年生の青春のカケラ(言葉)を拾い集めた。

からだを張ったロックの村瀬加純はこう、言い切った。

 「一番、笑顔で楽しくできた試合でした」

 ウイング梅津もよく泣いた。もう目が真っ赤。どんな大学ラグビー生活でしたか?

 「ラグビー人生で一番、成長できました」

 フッカーの根塚智華も泣いた。ポカリスエットのペットボトルで涙をふきながら、こう漏らした。

 「最後のシーズンで勝ち切れなかったところは悔いが残るんですけど、このメンバーで最後の試合までやりきれたことがすごいよかったです。いい思い出をつくることができました。自分のこれからの力になります」

 センターの山田莉瑚は、シューズで西日を避けながら。

 「最後、日体らしいアタック、ディフェンスをすることができて、すごくうれしかったです」

 SOの大内田は笑顔だった。

 「この仲間たちと出会えて幸せでした。このメンバーだからこそ、ここまで頑張ってこれたと思います。最後、負けちゃったけれど、自分たちのラグビーをやりきることができてよかったです」


 

 ◆青春の宝物

 

 いろんなことがあった1年だった。

 それも時が経てば、かえり見る微笑に変わる。意気であり、感激となる。青春の宝物となる。それも素敵な仲間がいればこそ、だろう。

 4年生8人は全員、ラストゲームのレギュラーをつとめた。おつかれさま、そして、ありがとう。



 (筆:松瀬学)

 

 
 

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