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まっちゃん部長日記

まっちゃん部長日記@太陽生命セブンズ第1戦


 さあ、新たな年度のキックオフです。日本体育大学ラグビー部女子の「熱量」と「ひたむきさ」は伝導されていきます。7人制女子の年間王者を決める太陽生命シリーズの第1戦、北九州大会が開かれ、我らの日体大は6位となりました。



 桜満開の福岡は小倉です。4月7日の日曜日。湾岸に建つミクニワールドスタジアム北九州には千人ほどのラグビーファンが駆け付けました。濃紺と水色の横縞模様の日体フラッグも振られていました。バックスタンド近くの海上には白い船がゆるりと優雅にゆきます。緑の天然芝の上では、ユニコーンズ(日体大の愛称)が元気に駆け回っていました。



 ただ、新チームがスタートしてまだ3週間ほどです。日本代表の松田凛日選手らレギュラー半分ほどは卒業しました。すなわち、チームとしての経験不足は否めませんでした。加えて、昨年と比べると、この開幕戦の時期が1カ月ほど早まっていました。学生チームならではでしょう、大会への準備期間が不足していました。ちなみに翌日の8日の月曜日から新学期がスタートです。



 ◆準々決勝でフェニックスに不覚の敗戦、樋口主将「まだチームは4分咲き…」

 

 大会1日目は3戦全勝のB組1位で2日目の決勝トーナメントに進出したものの、日体大は午前の準々決勝で社会人クラブの東京山九フェニックスクラブに苦杯を喫しました。後半、追い上げましたが、5-12で届きませんでした。よもやの敗戦です。悔しいのなんのって。

 試合終了後、キャプテンの樋口真央さんは副将の大内田夏月さんと肩を抱き合っているシーンには胸を打たれました。つらいに決まっています。終盤シンビンをとられた大内田副将は涙を流していました。


 結果、日体大は5-8位決定予備戦に回りました。自衛隊体育学校PTSを一蹴しながらも、最後の5位決定戦も、社会人クラブのアルカス熊谷に惜敗しました。後半、右に左に得意の展開力を生かして振り回しましたが、よく整備された相手ディフェンスをちぎることができませんでした。

 試合終了のホーンが鳴ります。日体大が最後の反撃をつづけます。部員の保護者でしょうか、スタンドの僕の目の前の女性は立ち上がって日体フラッグを振り上げ、大声で叫んでいました。「がんばれ、ニッタイ! がんばれ、ニッタイ!」と。

7-10でノーサイド。「求めていた結果じゃなかったんですけど…」。ロッカールームから出てきた樋口主将は言葉に悔しさをにじませました。汚れた指の白いテープをはぎながら、言葉を足します。

 「反省点だったり、修正点だったりは明確なので、(健志台キャンパスに)帰って、練習するしかありません。みんな、走ると言っています。次の大会に向けて、練習で走って、からだをあてて、みんなでがんばろうと言い合いました」



 そうです。臥薪嘗胆(がしんしょうたん)です。日体大は5位以下に甘んじるようなチームではありません。自慢が学生らしいひたむきさと組織力です。それが機能すれば…。

 スタジアムそばの公園ではサクラが咲き誇っていました。桜にたとえるとチームは今、何分咲きですか、とベタな質問をすれば、主将は「5分咲き、いや、4分咲きですか」と苦笑いをつくりました。

 「でも、これからどんどん(桜が)開いていきます。じき満開ですよ」



 ◆随所に好プレーも。新1年生の谷山選手が光を放つ

 確かに不本意な結果となりました。でも、貴重な経験となったでしょう。局面を切り取れば、光るプレーは随所にありました。とくにチームのピンチを救った畑田桜子さん、向來桜子さんの“ダブル・サクラ”の粘り強い動き、懸命に戻ってのゴールライン寸前で相手をつぶした梅津悠月さんの猛タックル、からだを張り続けた樋口主将の奮闘…。

 そして、そして、大学入学1週間でプレーした谷山三菜子さんは、パスやラン、判断に非凡な才能を輝かせました。安定したゴールキックも披露しました。これでスピード、体力がつけば、日本代表入りが見えてきます。

 

 ◆古賀監督「いい学習機会になったのかな」

 

 知性と情熱の指導者、古賀千尋監督は「結果はもちろん、私たちが望むものではなかったですけど」と言いながら、表情は険しくはありませんでした。

 「昨年のレギュラーが半分以上抜けている中で、選手たちにとっては、いい学習機会になったのかなって思います。やっぱり、シンプルなことだけをやっていて勝てる大会ではありませんので…。外国人選手がいないチームで、組織として同じ絵を見て戦っているわけですから…。経験のある選手と、そうではない選手が融合するきっかけというか、学習の機会になりました」

 

◆『翔』。ユニコーンズの成長をご照覧あれい!

 

 なお決勝では、昨年総合1位のながとブルーエンジェルスが24-17で三重パ―ルズを下し、優勝しました。1日目のグループ戦で、日体大は三重パ―ルズに快勝していました。

ながとブルーエンジェルス入りした日体大の昨年度主将の新野由里菜さんはこう、後輩にエールをおくりました。

 「みんなで守って強いディフェンスもありました。これも経験です。これから、どんどん強くなっていきますよ、きっと」

 今年度の日体大のチームスローガンは『翔』(しょう)です。飛翔の翔、羽ばたく、勝つ、笑う、昇る、魅せる、といった意味をこめています。いざ、悔しさを胸に羽ばたいていくのです。みなさん、ユニコーンズの成長を、ご照覧あれい!

            (松瀬 学)

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2024 年 3 月 25 日


このたび、日本体育大学ラグビー部ホームページのコラム『まっちゃん部長日記』をまとめ た書籍が出版されることになりました。この 1 年間の指導陣の情熱、学生の努力がつぶさに わかる熱い一冊となっております。ぜひご一読ください。


『まっちゃん部長わくわく日記 ―日体大ラグビー再生』

出版社 : 論創社

発売日 : 2024/3/31

著 者 : 松瀬 学

単行本(ソフトカバー) : 272ページ

本体 1,600 円+税


オンラインでの購入は以下公式サイトよりアクセス下さい。

閲覧数:32回

まっちゃん部長日記⑭【全国大会準決勝 日体大×PEARLS】


 涙、涙、ああ涙のノーサイドである。2024年1月21日の日曜日。大学の雄、日本体育大学は、全国女子ラグビー選手権大会準決勝で、社会人クラブの三重・PEARLSに0-29で敗れた。濃密な1年が終わった。

 共同主将のCTB、新野由里菜は泣いた。目は真っ赤だ。「めちゃ悔しいです」と漏らし、涙声でつづけた。

 「自分たちがやりたいことができなくて…。それが、敗因かなと思います。みんな、限界までがんばったんですが」



 ◆感動と興奮のひたむきなタックル

 

 「はるばる来たぜ~♪函館」ではなく、三重県鈴鹿市である。F1レースを開催する鈴鹿サーキット場そばの三重交通Gスポーツの杜鈴鹿ラグビー場。晴れ間が広がりながらも、レースカーのエンジン音のごとく、強風がゴォーゴォー吹き荒れていた。観客が数百人、その大半が地元のPEARLS応援団だった。

 「小」が「大」を倒す。倒し続ける。その感激と興奮、やはりラグビーの醍醐味はタックルに尽きる。タックル、タックル、またタックル。日体大は序盤から強力外国人を擁する相手に前に出る鋭いディフェンスとひたむきなタックルで挑んでいった。だが…。

 

◆コリジョン(接点)で完敗

 

 どうしてもコリジョン(接点)で圧力を受ける。ターンオーバーを許す。風上の前半。敵陣ゴール前に攻め込んでも、ブレイクダウンでボールを奪取された。加えて、ラインアウトだ。実は試合直前のアップでスローワーのフッカー、根塚智華が首筋を痛め、ボールを投げられなくなった。だから、序盤は、ナンバー8の地藏堂萌生が急きょ、スローイングせざるをえなくなった。敵陣に攻め込んでのマイボールのラインアウトを確保できなかった。

 古賀監督は開口一番、こう言った。

 「完敗ですね」

 深いため息をつき、淡々とした口調でつづける。

 「前半、風上でチャンスが何度かあったのにもかかわらず、それを生かすことができませんでした。コリジョンでやられました。接点で相手の方が強かったですね。ラインアウトでボールがとれないのも痛かったです」

 


◆痛恨のインターセプト

 

 それでも、前半は互角の内容だった。PEARLSのエミリー・チャンスラー、タフィト・ラファエレの両巨漢ロックの突進も猛タックルで押しとどめていた。ひとりで止まらないなら、結束のダブルタックルで。

 あえて勝負のアヤを探せば、前半最後の失ったトライだろう。

 日体大が敵陣深く攻め込んでの前半のラストプレーだった。ラインアウトから右に左にパスをつないで振り回す。ラックから左オープンに出た。ラインが勢いづく。トライチャンスだ!と思った瞬間だった。名手SO大内田夏月のロングパスを、相手CTB、古屋みず希(2021年度・日体大キャプテン)にインターセプトされた。

 日体大はすかさず戻る。走る。新野主将が懸命のバッキングアップからタックル。が、フォローしたCTBシャキーラ・ベイカーにつながれ、右中間に飛び込まれた。最後、CTB畑田桜子の戻りも届かなかった。このトライで、0-12となった。

 

◆古賀監督「もう疲労困憊。満身創痍です」

 

 後半は、PEARLSペースとなった。日体大がいやなところを相手に突かれた。接点勝負。外国人を軸に接点を押し崩され、オフロードで短くつながれては裏に出られてしまった。その圧力たるや。どうしても、こちらのリズムは悪くなる。ミスも続発と悪循環に陥った。

 0-29で試合終了。最後は新野主将のオープンキックが無情にもタッチラインの外まで転がってしまった。シーズン終了を告げるレフリーの笛が強風に乗った。

 そういえば、この日の登録メンバーは規定の23人より1人少ない22人だった。理由を聞けば、古賀監督は「けがです」と苦笑した。

 「もう疲労困憊、満身創痍です。決勝に進んでも辞退していたかも、というレベルです」

 

 FWの最前線で奮闘した共同主将のプロップ、小牧日菜多は懸命に涙をこらえていた。スコアボードが遠くにみえる。「完敗ですか?」と聞けば、「はい」と小声で漏らした。

 「ま、準備してきたことが出し切れませんでした。この2週間やってきたのは、ディフェンスの幅とかだったんですが。コリジョンで負けてしまったところが敗因でしょうか。分かっていたけれど、そこで止めきれなかったというか、やりきれなかったというか」


 

◆頑張り屋の小牧「感謝の1年です」

 

 これでシーズンが終わる。

 どんな1年でしたか? と聞いた。

 頑張り屋の小牧は「感謝の1年です」と言い切った。

「自分はみんなに感謝しかないなって思うんです。チームにいない時もあったけれど、新野らリーダー陣がうまくチームをコントロールしてくれました。日体って、すごくいいチームなんです」

 その新野はこうだ。涙はもう、乾いている。

 「むちゃくちゃ成長したなと思います。4年目でやっぱり、からだも技術面も精神面も成長したと思います。高校生の時と違って、考えながらプレーするようにもなりました」

 


◆古賀監督「学生の成長に驚かされる1年」

 

 この1年。

 日体大は代表チームに数多く選手を送り続けながらも、大会では結果をしっかり残した。

 7人制ラグビーのセブンズシーズン。初夏。4大会で編成された『太陽生命ウイメンズセブンズ』シリーズで総合2位と大健闘した。真夏には、セブンズの大学交流大会で、日体大は決勝で東京山九フェニックスを破り、見事、2連覇を果たした。学生らしいひたむきさ、そのチームプレーは燦燦(さんさん)と光り輝いた。

 どんな1年でしたか?と聞けば、古賀監督は「う~ん」としばし考え、こう言った。言葉に滋味がにじむ。

 「学生の成長に驚かされる1年でした。太陽生命の新野、東(あかり)の活躍とか。そういうのは、3年生までの彼女たちの姿からは想像もできませんでした。この1年、4年生がずいぶん、頑張って、チームを引っ張ってくれました」

 

◆エース松田「ラグビーの楽しさが知れた4年間」

 

 大学最後の試合。エースのバックス、松田凛日は後半途中から交代で22分間プレーした。鋭利するどいステップを踏み、何度かゲインした。からだを張った。

 陳腐な質問です。どうでした?

 左足首の白色のテーピングテープをはがしながら、天真爛漫な松田は「あっけなく、終わっちゃった」と小さく笑った。「なんか、自分たちのやりたいことが全然できないまま、終わっちゃいました」

 大学4年間は?

 「ラグビーの楽しさが知れた4年間でした」

 


 松田ら4年生はほとんどが卒業後、社会人のクラブでラグビーを続ける。

 日本のエースは言った。いや言い切った。言葉に実感がこもる。

 「これからも、楽しく成長し続けたいです。課題がまだまだ、ありますので。セブンズもじゅう・ごにん(15人)も。オリンピックやワールドカップで活躍できるような選手になります」

 次のターゲットは、7月のパリ五輪だろう。大学シーズンは終わったけれど、ユニコーンズの魂は燃え続けるのである。(松瀬学)



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