まっちゃん部長日記@女子7人制ラグビー全国大学大会3連覇
青春っていい。チームはいい。家族もいいもんだ。学生スポーツならではの“ひたむきさ”と親子の情愛に触れると、つい泣きたくなる。女子7人制ラグビーの全国大学大会『Women’s College Sevens 2024』の決勝トーナメントが7月14日に開催され、日本体育大学ユニコーンズが追手門学院大学ビーナスを12-0で破り、3連覇を達成した。ユニコーンズプライド、バンザイである。
◆雨中の決勝戦も堅実な基本プレーとひたむきさで快勝
埼玉県熊谷市の立正大グラウンドだった。昨年の同大会は猛暑日の熱闘だった。前日の予選プールも炎天下だった。だが、この日は朝から雨が降り続け、幾分、アツさが和らいでいた。確かに雨天の試合はボールが手につかずハンドリングミスが起こりやすくなる。だが、だからこそ、基本プレーの優劣が如実に結果につながることになる。つまりは、ふだんの練習の積み重ねの差が出ることになる。
◆ラストセブンズにチーム結束。古賀監督「泥臭いラグビーをやろう」
いわば『ラストセブンズ』である。大学のチームは毎年メンバーが入れ替わっていく。7人制ラグビーの試合としては、本年度のラストマッチとなる。4年生も3年生、2年生、1年生も、一緒に鍛錬してきたチームにとっては、このメンバーによる最後の試合が大学3連覇をかけた決勝戦だった。
「うちらしい泥臭いラグビーをやろう!」。日体大女子の古賀監督は試合前、そう選手たちに声をかけた。そのココロは。
「きれいなラグビーをやろうとしても、天気が雨だし、フィジカルを前面に出していくしかなかったからです、泥臭く」
泥臭くとは、接点では前に出る。足をかく。サポートの2人目、3人目も激しくからだを寄せていく。攻めては、しつこくフォローする。つなぐ。ディフェンスでは、タックル、タックル、またタックル。1人目で相手が倒れなければ、2人目が襲い掛かる。休まず、レッグドライブ。そして、イーブンボールでは絶対に後手に回らない。こぼれたボールにも飛び込んでいく。ひたむきに。
相手の追手門大学は「打倒!日体大」に目の色を変えてきた。挑みかかる気概に満ちていた。でも、日体大もチャレンジャーだった。からだを張る。とくに4年生の覇気たるや。
◆からだを張った4年生「リコの分もがんばる」
そういえば、4年生はみな、左手首に白いテーピングテープを巻いていた。黒マジックでこう、書かれていた。<リコの分!!>と。
リコとは、ケガで試合に出られなかった4年生のバックスリーダー、山田莉瑚選手のことである。その<リコの分もがんばる>との思いが4年生のプレーから伝わってきた。
前半は、何度も敵陣深く攻め込みながら、ゴールラインを割ることができなかった。追手門大のディフェンスがしつこかったこともあるが、日体大はトライをとり急いでいた。そう見えた。
トライはとれなくとも、日体大のディフェンスの出来はよかった。キャプテンの樋口真央選手や大内田夏月選手らの4年生が猛タックルでチームを勢い付けた。3年生の向來桜子選手が強じんなフィジカルを生かし、相手を力でつぶす。髙橋夏未選手、持田音帆莉選手のサポートプレーもしぶい。そして、フレッシュな谷山三菜子選手、橋本佳乃選手の1年生コンビが伸び伸びプレーした。
◆チームはひとつで鉄壁防御。4年生の大内田選手、梅津選手が意地のトライ。
0-0で折り返す。勝負の後半だ。
4年生の頑張り屋、梅津悠月選手、2年生の髙橋夢来が交代でピッチに出る。開始1分を過ぎたころだ。自陣深くのラックから4年生の大内田がサイドの防御網を切り裂いて、相手タックルをきれいなスワーブでかわし、鋭利するどいランで約80メートルを走り切った。ビューティフル・トライ!
ついに均衡が崩れた。谷山選手がドロップキックを蹴り込んだ。7-0。その後、相手の反撃を、水野小暖選手、髙橋夢来選手がナイスタックルで阻む。向來選手が相手をはじき飛ばしながら突進していく。激しい攻防がつづく。大内田選手が猛タックルを繰り出す。みんなのハートが結束する。雨に濡れるピッチサイドのスタンドの一列目に座ったノンメンバーも声を枯らす。1年生は、手作りの谷山選手、橋本選手のカラフルな応援うちわをばたばた打ち鳴らした。
「イケ、イケ、ニッタイ!」
もうチームはひとつだった。終了間際。相手ノックオンを誘い、マイボールに。一気に回す。つなぐ。最後は梅津選手が約30㍍を走り切った。意地の、いや執念のトライだ。
12-0でノーサイドの笛が鳴った。ベンチから選手が飛び出し、ピッチ上で歓喜の輪ができた。
古賀監督は三度、選手たちの手で宙に舞った。
「サイコーです」。そう漏らし、声を弾ませた。
社会人や外国人選手も参加する春の『太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024』(全4戦)で、日体大は健闘しながらも、総合5位に終わった。昨年は2位だった。それでも、選手たちは確実に成長し、3年連続の大学日本一に結実した。
優勝の意味を問えば、古賀監督は「やっぱりユニコーンズプライドですよ」と即答した。
「太陽生命シリーズですごく鍛えてもらいました。だから、選手たちは成長していたのだと思います」
◆伸び伸びプレーの1年生コンビ、谷山選手と橋本選手
その象徴が、1年生の谷山選手か。
プレーのキレ、ランのシャープさ、判断のスピード…。プレーが見違えるほど鋭くなっていた。6月の女子セブンズの世界学生選手権(フランス)の日本優勝の経験もあるのだろう、プレーに自信があふれていた。谷山選手は「素直にうれしいです」と言った。
「この4年生と試合ができる最後のセブンズだったんで。4年生のためにも絶対、がんばろう、優勝しようと思っていましたから」
経験は宝である。
「ほんとうに濃い3カ月間でした。太陽生命から試合に出させてもらって、フランスでもいろんな刺激をもらって、自分の強みが再認識できました。(大学ラグビーに)慣れてきたのもあると思います」
もう一人の1年生、橋本も笑顔だった。
前日の予選プールではハンドリングミスが目立っていた。でも、この日、起用し続けた監督の期待に応えた。「すごかったですね」と声を掛けると、「はい。がんばりました」と無邪気に笑った。目がキラキラだ。
「昨日は、先輩たちが言葉でフォローしてくれました。例えば、“気にしなくていいよ”とか。今日は先輩を信頼して、自分なりに精一杯プレーした感じです。はい。思い切ってやれた感じです」
◆涙、涙の梅津ファミリー
あちらこちらで記念撮影が行われていた。ふと見ると、梅津選手がご両親と喜びを分かち合っていた。梅津選手は大会前、ケガに苦しんでいた。さぞ、つらかっただろう。それだけに、この日の活躍はこちらの心を揺さぶるものがあった。
「よかったね」と声をかけると、梅津選手は大粒の涙をぽろぽろっとこぼした。「ありがとうございます」。その涙のワケを聞けば、涙声で言葉を絞り出した。
「ひさをケガして…。ほんとうはもうちょっと(試合に)出たかったけれど…。4年間、みんなと一緒にやってきて、これがラストのセブンズだったので。その寂しさもあるし、ちゃんと1位をとれてうれしいという気持ちもあります。そういった涙です」
梅津選手の話を聞いていると、あれ、隣のおとうさんも泣いていた。その涙を見て、古賀監督も涙ぐんでいた。空が泣く。梅津ファミリーも泣く。監督ももらい泣きする。なんとハートフルな光景だろう。
梅津ファミリーのほかにも、樋口主将や3年生の髙橋夏未選手、2年生の髙橋夢来選手、水野選手らの保護者の方も雨の中、スタンドに駆け付けてくれていた。
また、フォトグラファーの善場教喜さんのサポートもありがたい。
素敵な写真をボランティアで撮影していただくだけではなく、暑さ対策として、キャンプグッズの大容量のバッテリーやポータブル冷凍庫などをご提供いただいている。
これがどれほど選手たちの役に立っているのか。もう感謝しきれないものがある。
我が持論なれど、周りに応援されるチームは強いのだ。
◆大会MVP髙橋夏未選手「4年生とセブンズができるのは最後」
大会MVPは3年生の髙橋夏未選手だった。攻守に大活躍した。とくにボールのさばきと鋭いランは抜群だった。パリ五輪代表は最後の最後に逃した。
実は、チームメイトには「優勝して、MVPを獲る」と宣言していたらしい。
有言実行。髙橋夏未選手は、「オリンピックがダメだったけれど、ワタシ、そんなのでモチベ(モチベーション)が無くなるタイプじゃないんで」と漏らした。心の強い選手だ。
「じゃ、国内の大会でがんばろうと思っていました。くよくよしてはいられないと。4年生とセブンズができるのは最後だし、こう、何だろう、チームを勝たせられるようにからだを張ろうと決めていました」
パリ五輪の悔しさもやがては良き財産となる。きっと4年後のロサンゼルス五輪出場につながるだろう。髙橋夏未選手は、いつも前向きだ。
「その時(パリ五輪メンバー落選)は応えたけれど、もっと経験を積まないといけないと思いました。まあ、実力不足のところがあったので。国内レベルの試合なら圧倒してやろうと思っていました」
◆向来選手「すごく楽しかった」
もう一人の3年生の向來選手も奮闘した。準決勝の立正大戦では闘志が前に出過ぎて、危険なタックルでシンビン(2分間の一時退場)をもらった。
決勝では、向來選手は準決勝の一時退場の分も帳消しにする大活躍を見せた。
「決勝戦、すごかったですね」と言えば、向來選手は「みんなと試合に出ているのがすごく楽しかったです」と笑った。
「決勝戦は4年生の意地を感じて。やばかったです。4年生になると、私たちもあんなに変われるのかなって思います」
◆大内田「最後勝ててよかったです」
その4年生のエースが大内田選手だった。
いつものごとき、ここぞというときの集中力が光った。「おめでとう」と声をかければ、大内田選手は「3連覇というプレッシャーもあって」と打ち明けた。
「このメンバーでできる最後のセブンズだったので、楽しもうという気持ちと、絶対勝たないといけないというプレッシャーと…。最後勝ててよかったです」
◆とっても大変で、とっても大切な日々が、大学最強のチームを創り上げた
表彰式のあと、15分程して、やっとで樋口主将がメディアのインタビューから解放された。
胸もとには優勝トロフィーの収まった白い紙ボックスを大事そうに抱えている。「強かったですね」と声を掛ければ、「いやいや、私は何もしなかったので」と謙遜し、笑いながらキュートな八重歯をのぞかせた。こう、真顔で漏らした。
「ほんとですか。強かったですか。よかった~」
そして、言葉に実感をこめた。
「ほっとしています」
ひと呼吸おき、また笑った。
「よかった、ほんと。3連覇できて。試合はきれいにやらず、泥臭く、泥臭く、みんなでディフェンスしました。ディフェンスは結構、よかったと思います」
ことしの日体大、どんなチームですか?
「めちゃ、いいチームですよ。すごくみんな、仲がよくて。試合になれば、目の色を変えて戦い、終われば、わちゃわちゃして」
とっても大変で、とっても大切な日々が、大学最強のチームを創り上げた。そのチームワークの結晶が、このプライドをかけた大学3連覇なのだった。(松瀬学)