まっちゃん部長日記⑤2023年5月21日
アツいぞ、クマガヤなのです。日中の最高気温が30度突破。夏日となった日曜日の5月21日、日体大ユニコーンズが暑さに負けない“熱量”を発揮し、2019年以来の決勝の舞台にコマを進めました。拍手です。
勝負の『太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ』第1戦、熊谷大会です。暑さにも体力を奪われたのでしょう、日体大は決勝戦で力尽きました。強力な外国人選手たちを主軸とする「ながとブルーエンジェルス」にやられました。悔しいかな、選手たちは体力の限界を超えていたのでしょう。
0―31の試合終了。重い足取りでバックスタンドの前に整列したスカイブルーと紺色の日体大選手たちの横縞ジャージィの背中が疲労と憂いを帯びていました。右端の松田奈菜実選手は松葉づえ姿です。白い包帯が目に痛々しくて。
健闘の準優勝です。表彰式あとの記念撮影では、みんなでひと指し指を立てて、こう声をあげました。
「ユニコーンズ、次は、ナンバーワン!」
スタジアムの通路で、この日活躍した新野(しんの)由里菜主将は、「悔しいです」と声を絞り出しました。「(決勝では)自分たちのラグビーを全然、やれませんでした。次は勝ちます」
ただ収穫は大きかったのではないでしょうか。なんといっても、決勝の風景を見ることができたのです。そこまでの日体大のラグビーは“学生らしく”、ひたむきなものでした。みんな、からだを張りました。負けん気というか、意地というか、見る者の心の支持をつかんだのです。日体大ラグビーの美徳の輝きでした。
朝6時に東京ディズニーランドそばの自宅を車で出ました。土曜日は、リーグワンの決勝取材で熊谷には行けませんでした。高速道路ではワクワク気分でスピードをあげました(スピード違反はしていません。念の為)。「オ~、サンデー、サンシャイン♪」
ざっと2時間。熊谷ラグビー場の周りにピンクのつつじが咲き誇っています。朝の風がほおをなでます。周りのグラウンドでは、タグラグビー大会が開かれるそうで、子どもたちの笑顔があふれていました。かわいいフレンチブルも散歩していました。
サブグラウンドに行けば、いた、いた、日体大ユニコーンズのみんなが。濃紺のTシャツの背中には白字で「情熱」。“死のグループ”を3戦全勝で1位通過した自信でしょうか、ほどよい緊張感の中、笑顔もあふれています。
誰か選手の声が聞こえました。「まあちゃん日記…」と。僕はつい大声をあげたのです。「ちゃう、ちゃう、ホームページに書いているのは、まっちゃん日記ですよ。まあちゃんではなく、まっちゃん」と。
決勝トーナメント(1~8位決定戦)の初戦は、横河武蔵野Artemi―Starsが相手でした。前半はヒヤヒヤしましたけれど、前半終了のホーンが鳴ったあと、「負けるのが一番きらい!」と断言する向來(こうらい)桜子選手がPKからの速攻で同点トライを挙げました。12-12で折り返しです。
後半は、日体大が主導権を握りました。向來選手が約60メートルを走り切り、またまたトライ。“リンカスペシャル”2連発と松田凛日(りんか)選手が連続トライを加えます。松田奈菜実選手、大内田夏月(なつき)選手もトライし、終わってみれば、47―12の圧勝でした。
さあ、準決勝です。相手が昨年の総合優勝の東京山九フェニックスです。元米国代表のニア・トリバーら強力な外国人を擁する難敵です。気力充実。試合の入りがばっちりでした。
開始直後、向來選手のオフロードパスから松田凛日選手が大きなストライドで走り切り、右隅に先制トライを挙げました。
ディフェンスがいい。堤ほの花選手のタックルが決まり、笑顔がはじけます。髙橋夏未選手がボールを動かします。4分。新野主将の絶妙のキックを、追走した松田凛日選手がさらに蹴り、堤選手がインゴールに押さえました。ブラボー! 12―0と先行しました。
前半終了間際、トライを返されましたが、後半1分30秒、松田凛日選手がラックの左サイドに持ち出して、ハンドオフを決め、中央に飛び込みました。これまたブラボー!
ここから日体大は粘りました。1トライを返され、5点差に詰め寄られました。試合終了間際、ピンチが続きます。日体大から見ての右隅の攻防です。ゴールライン直前、東あかり選手が猛然とタックルします。でも、相手に飛び込まれたかに見えました。Oh、No! 同点トライを奪われたか?
レフリーの笛が鳴りました。トライか。いやタックルされた相手のダブルモーションでのペナルティーです。東さん、ブラボー、ブラボー、もういっちょブラボーです。19―14の試合終了。日体大がひとつになっての勝利です。
実況放送が場内に流れました。元日本代表エースの鈴木彩香さんの高い声がスタンドに響きわたりました。「劇的な勝利で~す」
その後、通路でばったり会った彩香さんに日体大の美徳を聞きました。「粘り強さですかね」と言い、こう言葉を足してくれました。
「“上手い下手い”じゃない次元のラグビーをいつもしています。それって、一番強くないですか。ラグビーって上手い下手いじゃないんだなって思わせてくれるんです。日体大は魂がベースなんですよ」
で、決勝は冒頭に書いた通りです。タイトなゲームをしのいで勝ち上がった日体大の選手には体力が残っていませんでした。外国人選手が並ぶ「ながとブルーエンジェルス」とは選手個々の体力も実力も差がありました。選手層も。
しかも日体大の主軸の松田凛日選手はコンディション不良で大事をとって出場できませんでした。日体大選手は死力を振り絞りました。でも…。唯一のトライチャンスだった前半終盤。東選手が40メートルほど独走しました。残念です。フォロワーが誰もいませんでした。
余談をいえば。
この日、僕はリュックのポケットにピカピカ金色の金メダルチョコレートを入れていました。日体大が優勝したら、古賀千尋監督にプレゼントしようと考えていたのです。
で、忘れていました。ペンをポケットから出そうとしたら、金メダルチョコレートが暑さでドロドロに溶けていたのです。ははは。
チョコレートのように真っ黒に日焼けした顔で笑うしかありませんでした。
戦いすんで日が暮れて。
西日が差し込むラグビー場の通路で、古賀監督はぽつりと漏らしました。「選手に感謝です」。言葉に滋味があふれます。
「もう、からだを張って限界まで戦ってくれました。限界の、限界の、限界まで、やってくれたんです。感謝しかありません」
隣を通り過ぎる選手の目元が赤くなっていました。泣いたのでしょうか。泣かないで。
僕は大声で言葉をかけました。
ナイス・ファイト! 夢膨らむ第一歩です。感動をありがとう、と。(松瀬学)