まっちゃん部長日記⑪【日体大対立正大ARUKASバーバリアンズ】
強いだけじゃ勝てない、のです。周りに愛されないと。大リーグの満票MVPの大谷翔平選手は、ファン、野球仲間、スポンサーのサポートを受け、活躍しています。日体大女子もまた、同じなのです。「ニッタイ、がんばれ!」、その声援が力を引き出すのです。
「ちょっとうれしいですよ」。日体大女子ラグビーを2016年からサポートしていただいている工具専門店『ファクトリーギア』社の髙野倉匡人社長はそう、口を開きました。この日の秋空のような爽やかな笑顔を浮かべて。
「女子のレベルが上がり過ぎて、びっくりです。日体大にご縁をいただいて、もう7年、8年になりますけれど、その時のレベルと今のレベルでは全然違いますよね。その(日体大のレベルアップの)一助になれたのかなって。うれしいです」
◆周囲の応援、サポート。古賀監督「チームの力になります」
11月19日。横浜・青葉台の日体大健志台ラグビー場。とても高い真っ青な秋の空の下、黄色や深紅に周囲の木々が色づいています。関東女子ラグビー大会「OTOWAカップ」。日体大は立正大ARUKASバーバリアンズと対戦し、52-17で快勝しました。順調に開幕2連勝です。
ホームだからでしょうか、チーム関係者のほか、部員の保護者、OG、女子サッカー部、スポンサーの方々がスタンドに駆け付けてくれました。これは、チームの力になりますか?と声をかければ、古賀千尋監督は即答でした。
「なります、なります」
◆苦しんだ前半
「丁寧なラグビー」が試合のテーマでした。初戦ではハンドリングミスを続発し、持ち前のランニングラグビーがあまり円滑に機能しませんでした。この日は立ち上がりこそ、相手の激しいディフェンスに苦しみましたが、徐々に本来のパスプレー、ランニング、そしてチームプレーが発揮されていきました。
紺色のセカンドジャージの日体大は前半4分、ターンオーバーから右につないでCTB山田莉瑚選手が先制トライ。相手にトライを返されましたが、10分過ぎ、プロップ森永菜月選手らがスクラムを押し込んでコラプシングの反則をもぎ取ります。すかさず攻めて、プロップ峰愛美選手がラックの左サイドを突いてトライ!(その後のプレーで峰選手は足を痛めて負傷退場です。もう、痛そうで)
ここからです。ハンドリングミスが相次ぎます。相手に2トライを返されます。12-17と逆転されました。嫌な雰囲気です。でも、グラウンドの選手から大きな声が出ました。
「ニッタイ、イケるよ!」
◆西村咲都希選手「赤色キャップは父からのプレゼント」
前半30分過ぎ、左右の展開から、CTBの新野由里菜主将がぴゅーっと切れ込んで、真っ赤なヘッドキャップの1年生ロックの西村咲都希(さつき)選手がラックサイドを突いてトライしました。前半終了間際にも、スクラムのサインプレーからSO大内田夏月選手がタテに切れ込んで、西村選手がインゴールに飛び込みました。ゴールも決まって、26-17で前半を折り返しました。
スタンドから見ると、サンタクロースの帽子のごとき、赤色のヘッドキャップは目立ちます。よく見れば、赤色と黒色です。タテへのキレキレのランニングで、この試合のプレーヤー・オブ・ザ・マッチ(POM)に選ばれた西村選手。試合後は、「うれしいです」と顔をくしゃくしゃにしていました。
で、そのユニークなヘッドキャップは?と聞けば、石見智翆館高校1年の時におとうさんからプレゼントされたものでした。
「デザインもおとうさんが考えたのです。アカクロが好きなんです」
◆ニッタイ、ブギウギ♪
後半は、ナンバー8のポジションの畑田桜子選手がCTBの位置に回りました。向來桜子選手ら代表クラスが交代出場したこともあるのでしょう、アタックのリズムが俄然、よくなりました。なんといっても、接点でみんな前に出て、ブレイクダウンからの球出しがテンポよくなりました。交代出場のSH山本彩花選手の球さばきもテンポアップ。
おっさんの耳には、スイングの効いた8ビートの東京ブギウギのリズムがどこからか、聞こえてきました。
<ニッタイ、ブギウギ♪ リズム、ウキウキ♪ ココロ、ブギウギ、ワクワク♪>
◆古賀監督「丁寧にやろうとする意識があった」
後半は先週の試合の課題だったラインアウトの獲得率が100%となりました。
スクラムも強固ですし、セットプレーが安定すれば、日体のランニングラグビーが威力を発揮します。とくにラインアウトのスローワー、フッカー根塚智華選手はエライ!
後半3分は、フッカー根塚選手、プロップ森永選手とタテにつなぎ、最後は西村澪(みお)選手が中央に飛び込みました。
生きたボールが出れば、SO大内田選手のパスワークも冴えます。SO大内田選手、西村選手がトライを重ね、最後はCTB新野主将のキックパスをWTB梅津悠月選手が捕ってトライをとりました。後半は、日体が4トライし、相手をノートライに封じました。
古賀監督もご機嫌です。丁寧なラグビーができましたか?と質問すれば、首をちょっとひねって、「ま。やってはいましたね」と苦笑いです。
「丁寧にやろうとする意識があったんで。(ハンドリング)エラーは減りました。ラインアウトの獲得率は後半、ひゃくぱー(100%)だったから、素晴らしかったですね」
課題は、試合の入り(立ち上がり)です。
◆ファクトリーギア賞は畑田選手と新野主将に
そうそう、日体大の公式ジャージの右肩にはファクトリーギアのロゴがついています。
この日は、試合で活躍した畑田選手、新野主将の2人には、「がんばったでしょう(賞)」ということで、『ファクトリーギア賞』が高野倉社長から直接渡されました。
紺色の地に黄色の文字で「工具好き」と描かれています。最後は、みんなで記念撮影です。はい、チーズ! パシャ! 秋空の下、キラキラと笑顔が輝いてみえました。
◆新野主将「応援されると、スイッチが入ります」
この日、古賀監督から健闘賞の『ゴールドシール』をもらったのは、根塚選手と山本選手でした。いつも日体大の女子ラグビーを応援してくれている善場教喜さんからもプレゼントがありました。善場さんは試合の写真も撮っていただいております。時折、差し入れもいただきます。
善場さんは言います。「世界や日本一、そういった高い目標に向けて、がんばっている子たちを応援したいんです」と。ありがたいことです。
日体大ラグビー部女子は、いろんな方々に応援されています。
いつも陽気な新野主将は試合後、女子サッカー部の友人ときゃっきゃと騒いでいました「ワタシ、人気もんなんで」なんて笑います。
「人に応援されると、よけい、がんばんなきゃとスイッチが入ります。なんか、気持ちが入って、チームも強くなる気がします。うれしいです」
◆天国の難波良紀さんを追悼
そういえば、試合前、澄んだ空気をレフェリーの「黙とうっ」という高い声が切り裂きました。女子ラグビーのBrave Louve のゼネラルマネジャー、難波良紀さんの追悼です。難波さんは11月8日に病気でご逝去されました。享年56でした。
難波さんには日体大女子も応援してもらっていました。ラグビーが大好きで、スポーツ愛、人間愛に満ち溢れていました。合掌。
日体大女子もまた、「ラグビー愛」と「感謝」とともに全力でプレーするのです。
(松瀬 学)
【撮影:善場教喜さん】