まっちゃん部長日記@菅平合宿
青春ど真ん中である。再び、標高千数百メートルの長野・菅平高原に登れば、今度は日本体育大学ラグビー部女子の学生たちが鍛錬に励んでいた。己へのチャレンジ、汗と情熱がほとばしる。
少し秋めいてきたけれど、まだ陽射しはきつい。気温は東京より数度は低く、高原ならではの涼しい風が吹く。一緒に練習して寝泊まりする5泊6日の合宿。日本代表の遠征や教育実習などでの不参加者も多いが、古賀千尋監督によると、テーマは「基本プレーの徹底と基礎作り、ラグビー理解度のアップ」となる。つまりは、秋の15人制シーズンに向けてのベース作りだろう。
古賀監督は言った。いつもの水色の帽子の下の表情には充実感がにじむ。
「学生たちはいろんなことを学習している過程ですから。ここでは、(練習試合の)結果を出すというよりは、体験して学んで次につなげていく機会を得るんです。そういった意味では、すごくいい合宿ができています」
◆熱い練習試合、日体大はアルテミスターズと激突
合宿3日の13日。午後は、日体大や横河武蔵野アルテミスターズ、横浜TKM、日本経済大学、RKUグレースの女子5チームが、向井館そばの「80番」「96番」グラウンドに集まった。余談を言えば、菅平高原には大小108面ものラグビーグラウンドがある。
30分1本の練習試合が対戦相手を変えて次々と行われていく。日体大はまず、アルテミスターズと激突した。7人制ラグビーと15人制ラグビーの一番の違いはコリジョン(接点)の激しさか。ナンバー8の樋口真央主将やロックの持田音帆莉がひるまずぶつかっていく。スタンドオフの大内田夏月が鋭いパスで相手ディフェンスを切る。キックも冴える。
SH山本彩花が好パスでラインを動かす、CTB松田奈菜実が力強いランでゲインする。WTB高橋夢来(ゆらら)が鋭利するどいランでチャンスをつくる。おっ! 1年生の八尋瑛(あきら)が猛タックル。
中盤、青色ヘッドキャップのプロップ麻生来海(くるみ)がラックサイドを突いてトライした。終盤、1トライを許し、トライ数は1本ずつで終わった。
遠くの白い入道雲が陽射しでキラキラ光っている。グレーの雨雲もにょきにょきひろがってきたかと思えば、遠くからカミナリの音が聞こえてきた。ゴロゴロ、ゴロゴロ。
◆日体大、TKMにはコリジョンで力負け。でも、魂のタックル
次の相手は、強力外国人を複数擁するTKMだった。
からだの大きさ、パワー、フィジカルで圧倒され、ブレイクダウンで後手を踏む。身長差ゆえか、未熟なスローイングゆえか。マイボールのラインアウトを確保できない。先制トライを許したが、日体大は10分過ぎ、ロック持田がラックサイドを持ち出してビッグゲイン、フォローしたSO大内田につなぎ、左中間にトライした。
コリジョンでやられた。パワーで押され、相手に2トライを加えられた。でも、ゴールライン間際のディフェンスはしつこかった。樋口主将が、大内田が外国人の突進をタックルで阻む。ロック西村澪もからだを張った。
古賀監督は、「タックルは思っていた以上によかったなあ」と漏らした。
「とくにゴール前は粘っていた。そういうところは偉かった。絶対にあきらめない、その粘り強さはすばらしかった」
◆古賀監督「思っていた以上にみんな、頑張った」
結局、トライ数は、1本対3本だった。とくに1年生にとっては、シニアのチームの強度がどのくらいか勉強になっただろう。古賀監督は、「思っていた以上にみんな、頑張った」と選手をほめ、こう続けた。
「外国人選手やシニアチームの強度を体験できたということはよかったです。コリジョンの部分で全然通用してなかった部分もあったけれど、それが糧になって、もっと頑張らなくちゃという気づきになってくれれば、この合宿は成功ですよ。身を持って体験しないと頑張れないと思うので」
余談。
グラウンドは緑色の高いネットで防御されているけれど、時折、キックしたボールがネットを越えて林に飛び込んでいく。実は、このボール探しが難しい。プチ感動。試合後、けが人の湯浅月葉と細合智羽の1年生コンビがボールを探しに行った。無事、確保。ボールを抱えて戻ってきた細合の足元を見れば、白いシューズはドロドロに汚れていたのだった。
◆レフェリーのレッスン、チームディスカッションは気づきの場
試合後、試合の笛を吹いていただいたアルテミ所属の牧野円レフェリーからルールのレッスンがあった。質疑時間もあって、これは、ルール理解度が進む。
日体大はその後、役割ごとの3つのグループに分かれてミーティングを開いた。
意見を出し合い、グッド(よかった点)、バッド(悪かった点)、ネクスト(改善点)をみんなで洗い出す。古賀監督は議論に入らない。これが、学生のラグビーナレッジを磨くことになっているのだろう。
グループディスカッションが終われば、チーム全員がひとつになって、それぞれが結論を発表する。古賀監督が質問する。
「それでは、次に一番変えないといけないところはどこですか?」
グループリーダーがそれぞれ応える。
「〇〇〇」
「×××」
「△△△」
いいレビューである。
◆ゴールドシール賞は松田、持田、そして1年生の八尋。「ワンダフル」
さあ、この2日間の練習試合の「ゴールドシール」賞の発表である。
最も活躍した選手を祝福するセレモニー。古賀監督が3枚の金色のシールを手に持ち、「さあ、ゴールドシールの発表で~す」と言う。
学生たちは、「ジャガジャガジャガ~」と言いながら、両手で脚をたたく。
「1枚目は、松田奈菜実くん。ドライブ、素晴らしかった」
「ヤッター!」
ジャガジャガジャガ、ジャガジャガジャガ~。
「もう1枚は、ネオリさん(持田)。ボールキャリーもだけど、やっぱりタックルがよかった。相変わらず、ひるまず、大きい相手にもガッツリ入っていたね」
ジャガジャガジャガ、ジャガジャガジャガ、ジャガジャガ~。
「最後の1枚は八尋さ~ん。同じくボールキャリーとタックルでよく頑張っていたと思います。リハビリ明けとは思えないほどの活躍でした」
選手の円陣のそばに寄ってきた古賀監督の愛犬、ベージュ色のダックスフンドの「リュウ」ちゃんが突然、「ワン、ワン」と吠える。そう、ワンダフルのワンと。
このあと、日体大ファンのフォトグラファー、善場教喜さんから差し入れが樋口主将に渡された。5個の新品ラグビーボールとマスカット、栄養ドリンク…。ありがたいことである。
◆樋口主将「合宿はオモシロい」
みんな疲労困憊。
樋口主将が疲労感を漂わせながらも、「いい合宿ができています」と少し笑った。
「ふだんは相手を付けて練習できないので。試合を想定した合同練習や練習試合で、実戦を肌で感じることができています。しんどいですけれど、合宿はオモシロいです」
それにしても、この日の日体大のタックルには胸を打たれた。
とくにゴール前のディフェンスはしつこかったよね、と言えば、主将は破顔一笑、「私たちは泥臭く、頑張るだけです」と言葉に力をこめた。
◆増量計画
話題が、チームの『増量計画』に及んだ。
小柄な選手が多い日体大。各自が月ごとの目標数値を設定し、食事や栄養補給を心掛けている。樋口主将が、「増量組代表がナッツ~(大内田夏月)で」とこぼし、噴き出した。
「ナッツ~は食事の時間、頑張って食べているんですけれど、しゃべる方の口が忙しくて。1年生の橋本(佳乃)さんから、“ナツさん、おハシ(を持って食べて)”、って声が飛ぶんですよ」
樋口主将が「ナッツ~」と呼べば、大内田がアイシング用の氷のビニール袋片手に「ナニ、ナニ」と寄ってきた。
「はい。私は、頑張って、頑張って、食べています。食べているんですけど…。体重を増やすというより、キープですね。(HPに)ああ書かれる~」
◆女子ラグビー界はビッグファミリー。和気あいあいのBBQパーティー
その日の夜、グラウンド近くのサングリーン菅平で練習試合をした5チームが一緒になってバーベキューパーティーが開かれた。総勢、約150人。各チームの踊りやお笑いの出し物もあって、和気あいあい、笑顔と親睦の輪がひろがった。
まるで『ビッグファミリー』、この関係性は女子ラグビーならではだろう。
僭越ながら、いや恐れ多くも、僕が乾杯の音頭をとることになった。
それでは、みなさん、声高らかに。
青春にかんぱ~い!
(筆・松瀬学=写真は撮影・善場教喜さん)