まっちゃん部長日記@関東大会開幕戦
雲ひとつない青空が広がる秋晴れである。まさにラグビー日和の11月3日の「文化の日」。15人制ラグビーのOTOWAカップ第35回関東女子ラグビー大会が開幕した。日本体育大学は合同チーム「Pieces」を36-10で破り、好スタートを切った。
日体らしいハードワークとひたむきさ、一直線の頑張りに魂が揺さぶられる。ああ青春ど真ん中だ。さあ、新たな物語が始まる。
◆試合登録は3人足らずの20人。樋口主将「みんな、へとへとです」
試合前、この日のメンバー表をみて驚いた。通常各チームの登録人数は23人、だが日体大は20人しか名前がないのだった。相手チームは当然、23人。古賀千尋監督に確認すれば、「けが人が多くて」と説明してくれた。試合後、チーム随一の頑張り屋さん、フランカー樋口真央主将は「みんな、へとへとです」と苦笑いしたものだ。
「交代選手が少ないのは分かっていました。でも、走って、走って、走りました。とくにプロップ陣がよく、がんばってくれたと思います」
ところで、相手チームの「Pieces」ってどんなチームなのか。「ピーシーズ」と読む。関東協会スタッフに聞けば、BRAVE LOUVE、自衛隊体育学校PTS、北海道バーバリアンズディアナ、弘前サクラオーバルズ、国際武道大学から成る合同チームだった。なるほど、「piece(部分、一片)の集合体を意味するのか。むしろ、「peace(平和)」の意味合いも感じるのだった。実は女子15人制ラグビーの競技人口の厳しさが見てとれる。
また合同チームとはいえ、各チームのトップ選手の選抜チームみたいな編成だった。日本代表や、有力外国人選手も名を連ねている。手ごわそうな相手だった。
◆15人制ラグビーデビュー戦のFB松田奈菜実「楽しかったです」
会場が、横浜市の日本体育大学健志台キャンパスのラグビー場だった。
淡い黄色に染め始めた樹木に囲まれグラウンドでは、緑色のきれいな人工芝が陽射しに光っている。午後1時、相手ボールでキックオフ。風上の前半。ボールを持てば、紺色と水色の段柄ジャージの日体大が勢いよく走り出す。
鋭く前に出るディフェンスが、攻めのリズムをつくる。とくにFWの集散がいい。ブレイクダウンから出た生きたボールを、SH山本彩花が左右にさばく。SO大内田夏月がディフェンスラインのギャップをつけば、観客席から感嘆の声が漏れた。
前半5分。SO大内田が判断よく、絶妙のキックを左のインゴールに蹴り込んだ。「あ・うん」の呼吸で反応したFB松田奈菜実が好ダッシュを見せ、デッドライン目前でボールを押さえて先制トライした。笑顔で右手を突き上げた。
日体大ラグビー場のインゴールは比較的広い。「地元の利」を生かした格好である。それにしても、松田はこの日、メチャ躍動していた。プレーに喜びが満ち溢れていた。
試合後、松田になぜ?と聞けば、「デビュー戦ですから」と笑った。
これまで2年間、ケガに泣かされ、15人制ラグビーでは公式戦に出ることはできなかった。だからだろう、「楽しかったです」という言葉に実感がこもる。
「最初から、自信持って、思い切りプレーしようと決めていました。チームが落ち込んじゃった時も、自分は大声を出して盛り上げていこうと思っていました」
◆スターオブザマッチの向來桜子「最後は結構、ばてたので」
松田がPGを追加した後の前半19分、SH山本彩花がラックサイドをスルスルと駆け抜けて、トライを追加した。ヘッドキャップからこぼれる束ねた長髪が秋風に揺れた。1トライを返されたが、前半30分、闘争心の塊、ナンバー8向來桜子が中央に飛び込んだ。地味ながら、FWのサポートプレーもよかった。ゴールも決まり、24-5とリードをひろげた。
向來は、この試合の『スターオブザマッチ』に選ばれた。一番活躍した選手に贈られる賞である。星空が彩られた盾をもらった。
向來は試合後、「結構、後ろからの押しもよかったので、いつもよりゲインできたかな」と周囲に感謝した。
「(勝利に)ホッとしています。日体大はやっぱり、走るラグビーがメインだと思うので、それが最後まで出せたのがよかったと思います。ただ、最後は結構、ばてたので、もっと走れるようにしたいです」
この日は、セットプレーのスクラム、ラインアウトが安定していた。
選手の声もよく出ていた。疲れが見えた時、グラウンドで誰かが大声を出す。
「前出るよ、ニッタイ!」
「がんばれ、フォワード!」
前半終了間際、SH山本がペナルティーキックから速攻を仕掛け、スピードよく駆け込んできたSO大内田につなぎ、右中間にトライを加えた。自分でゴールも蹴り込み、31-10で前半を折り返した。
◆ボーナス点ゲット。樋口主将「とれてよかったで~す」
風下に回った後半は予想通り、相手に圧され始めた。
交代メンバーを入れる相手に対し、日体大は3人を入れ替えただけだった。体格も相手の方が大きい。そりゃ、疲れるだろう。
でも、日体大はもう1本はトライを欲しかった。前半のトライ数が日体大4本、相手は2本。3トライ差以上でボーナス点をゲットするためにはあと1本、トライが必要だったのである。で、相手にはトライを許さない。
激しい攻防がつづく。とくに序盤、日体大はゴールライン前のピンチをよくしのいだ。フッカー根塚智華、右プロップ麻生来海、ロック村瀬加純、ナンバー8向來が接点でからだを張る。束となって守る。フランカーの持田音帆莉、樋口主将がナイスタックル!
ゴールライン寸前で、持田がジャッカルして窮地を救ってくれた。ありがと。その後も耐える。守る。タックルする。粘って、粘って、後半36分、途中交代出場のプロップ西村澪のナイス!セービングからチャンスが生まれた。
1年生ロックの八尋瑛が、フランカー持田が、ナンバー8向來が立て続けにタテを突く。ボクシングでいえば、ワン! ツー! スリー!とジャブをかまし、そして強烈な右のストレートだ。快足ウイングの梅津悠月が右ライン際を脱兎のごとく駆け抜け、右隅に飛び込んだ。これで3トライ差だ。やった~! ボーナスポイントゲットである。これは大きい。
樋口主将が漏らした。
「ボーナス点、とれて勝てて、よかったで~す」
前述の通り、この日のスターオブザマッチは向來。で、チーム表彰のゴールドシールが、1年生の八尋と、4年生の大内田だった。でも、みんな、がんばってくれた。部長から、みんなに、“頑張ったで賞”を出したいくらいである。
◆古賀監督「自信が持てる試合が初めてできた」
今年は夏合宿以降、チーム状態は苦しんでいた。
古賀監督は「ほんと、ここまでが大変でした」と打ち明ける。
「練習試合はぜんぶ、ぼろ負けで…。(ケガで)人はいねえわ、ディフェンスできねえわ、勝てねえわ、で、ぼろっぼろっだったんです。苦しかったですよね」
ひと呼吸をおき、「ようやく」と言葉を足した。
「自信が持てる試合が初めてできました。よくないところもありましたけど、いいところが多かったんで」
ここ数週間はディフェンスの修正をやってきた。結果、試合ではディフェンスでしっかりと前に出ることができた。アタックのポゼッションも継続できるようになった。
それにしても、日体大はよく走りますね、と声をかけると、古賀監督は「それしかないんで。重さ(体重)がない分」と苦笑いをつくった。
最後に聞いた。
今年はどんな新たな物語を紡ぎますか?
古賀監督はプッと噴き出した。「とりあえず」と言った。
「“とりあえず”ですよ、無事に完走したい。とてもじゃないですけれど、楽観的な事は言えません。正直、コツコツ、目の前のことを精一杯やっていくしかありません」
はてさて、どんな物語になるのか。どんな色合いの風景が広がっているのか。ふと選手たちの歓喜の輪をみると、その周りを、古賀監督の愛犬、ダックスフンドの「リュウ」ちゃんが走り回っていた。
大リーグのワールドシリーズを制したドジャースの大谷翔平の愛犬、デコピンのごとく、飼い主のチームの勝利を祝っているのだった。
(筆:松瀬学)