まっちゃん部長日記⑭【全国大会準決勝 日体大×PEARLS】
涙、涙、ああ涙のノーサイドである。2024年1月21日の日曜日。大学の雄、日本体育大学は、全国女子ラグビー選手権大会準決勝で、社会人クラブの三重・PEARLSに0-29で敗れた。濃密な1年が終わった。
共同主将のCTB、新野由里菜は泣いた。目は真っ赤だ。「めちゃ悔しいです」と漏らし、涙声でつづけた。
「自分たちがやりたいことができなくて…。それが、敗因かなと思います。みんな、限界までがんばったんですが」
◆感動と興奮のひたむきなタックル
「はるばる来たぜ~♪函館」ではなく、三重県鈴鹿市である。F1レースを開催する鈴鹿サーキット場そばの三重交通Gスポーツの杜鈴鹿ラグビー場。晴れ間が広がりながらも、レースカーのエンジン音のごとく、強風がゴォーゴォー吹き荒れていた。観客が数百人、その大半が地元のPEARLS応援団だった。
「小」が「大」を倒す。倒し続ける。その感激と興奮、やはりラグビーの醍醐味はタックルに尽きる。タックル、タックル、またタックル。日体大は序盤から強力外国人を擁する相手に前に出る鋭いディフェンスとひたむきなタックルで挑んでいった。だが…。
◆コリジョン(接点)で完敗
どうしてもコリジョン(接点)で圧力を受ける。ターンオーバーを許す。風上の前半。敵陣ゴール前に攻め込んでも、ブレイクダウンでボールを奪取された。加えて、ラインアウトだ。実は試合直前のアップでスローワーのフッカー、根塚智華が首筋を痛め、ボールを投げられなくなった。だから、序盤は、ナンバー8の地藏堂萌生が急きょ、スローイングせざるをえなくなった。敵陣に攻め込んでのマイボールのラインアウトを確保できなかった。
古賀監督は開口一番、こう言った。
「完敗ですね」
深いため息をつき、淡々とした口調でつづける。
「前半、風上でチャンスが何度かあったのにもかかわらず、それを生かすことができませんでした。コリジョンでやられました。接点で相手の方が強かったですね。ラインアウトでボールがとれないのも痛かったです」
◆痛恨のインターセプト
それでも、前半は互角の内容だった。PEARLSのエミリー・チャンスラー、タフィト・ラファエレの両巨漢ロックの突進も猛タックルで押しとどめていた。ひとりで止まらないなら、結束のダブルタックルで。
あえて勝負のアヤを探せば、前半最後の失ったトライだろう。
日体大が敵陣深く攻め込んでの前半のラストプレーだった。ラインアウトから右に左にパスをつないで振り回す。ラックから左オープンに出た。ラインが勢いづく。トライチャンスだ!と思った瞬間だった。名手SO大内田夏月のロングパスを、相手CTB、古屋みず希(2021年度・日体大キャプテン)にインターセプトされた。
日体大はすかさず戻る。走る。新野主将が懸命のバッキングアップからタックル。が、フォローしたCTBシャキーラ・ベイカーにつながれ、右中間に飛び込まれた。最後、CTB畑田桜子の戻りも届かなかった。このトライで、0-12となった。
◆古賀監督「もう疲労困憊。満身創痍です」
後半は、PEARLSペースとなった。日体大がいやなところを相手に突かれた。接点勝負。外国人を軸に接点を押し崩され、オフロードで短くつながれては裏に出られてしまった。その圧力たるや。どうしても、こちらのリズムは悪くなる。ミスも続発と悪循環に陥った。
0-29で試合終了。最後は新野主将のオープンキックが無情にもタッチラインの外まで転がってしまった。シーズン終了を告げるレフリーの笛が強風に乗った。
そういえば、この日の登録メンバーは規定の23人より1人少ない22人だった。理由を聞けば、古賀監督は「けがです」と苦笑した。
「もう疲労困憊、満身創痍です。決勝に進んでも辞退していたかも、というレベルです」
FWの最前線で奮闘した共同主将のプロップ、小牧日菜多は懸命に涙をこらえていた。スコアボードが遠くにみえる。「完敗ですか?」と聞けば、「はい」と小声で漏らした。
「ま、準備してきたことが出し切れませんでした。この2週間やってきたのは、ディフェンスの幅とかだったんですが。コリジョンで負けてしまったところが敗因でしょうか。分かっていたけれど、そこで止めきれなかったというか、やりきれなかったというか」
◆頑張り屋の小牧「感謝の1年です」
これでシーズンが終わる。
どんな1年でしたか? と聞いた。
頑張り屋の小牧は「感謝の1年です」と言い切った。
「自分はみんなに感謝しかないなって思うんです。チームにいない時もあったけれど、新野らリーダー陣がうまくチームをコントロールしてくれました。日体って、すごくいいチームなんです」
その新野はこうだ。涙はもう、乾いている。
「むちゃくちゃ成長したなと思います。4年目でやっぱり、からだも技術面も精神面も成長したと思います。高校生の時と違って、考えながらプレーするようにもなりました」
◆古賀監督「学生の成長に驚かされる1年」
この1年。
日体大は代表チームに数多く選手を送り続けながらも、大会では結果をしっかり残した。
7人制ラグビーのセブンズシーズン。初夏。4大会で編成された『太陽生命ウイメンズセブンズ』シリーズで総合2位と大健闘した。真夏には、セブンズの大学交流大会で、日体大は決勝で東京山九フェニックスを破り、見事、2連覇を果たした。学生らしいひたむきさ、そのチームプレーは燦燦(さんさん)と光り輝いた。
どんな1年でしたか?と聞けば、古賀監督は「う~ん」としばし考え、こう言った。言葉に滋味がにじむ。
「学生の成長に驚かされる1年でした。太陽生命の新野、東(あかり)の活躍とか。そういうのは、3年生までの彼女たちの姿からは想像もできませんでした。この1年、4年生がずいぶん、頑張って、チームを引っ張ってくれました」
◆エース松田「ラグビーの楽しさが知れた4年間」
大学最後の試合。エースのバックス、松田凛日は後半途中から交代で22分間プレーした。鋭利するどいステップを踏み、何度かゲインした。からだを張った。
陳腐な質問です。どうでした?
左足首の白色のテーピングテープをはがしながら、天真爛漫な松田は「あっけなく、終わっちゃった」と小さく笑った。「なんか、自分たちのやりたいことが全然できないまま、終わっちゃいました」
大学4年間は?
「ラグビーの楽しさが知れた4年間でした」
松田ら4年生はほとんどが卒業後、社会人のクラブでラグビーを続ける。
日本のエースは言った。いや言い切った。言葉に実感がこもる。
「これからも、楽しく成長し続けたいです。課題がまだまだ、ありますので。セブンズもじゅう・ごにん(15人)も。オリンピックやワールドカップで活躍できるような選手になります」
次のターゲットは、7月のパリ五輪だろう。大学シーズンは終わったけれど、ユニコーンズの魂は燃え続けるのである。(松瀬学)