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まっちゃん部長日記

まっちゃん部長日記@府中朝日FBP


 ああ寒さが身に沁みる。関東にも寒波襲来。冷たい風に枯れ葉が舞う中、日本体育大学ラグビー部女子は、流通経済大学の「RKUグレース」に敗れた。ああ…。

 ラスト2分でやっとワントライを返したけれど、5-17で試合終了と相成った。大学生同士の試合らしく、ともに「ひたむき」、ともに「必死」。両者の意地とプライドがぶつかる激闘だった。見ているおっちゃんの胸も熱くなる。



 勝ったグレースの喜びようといったらなかった。よほど、この試合に懸けていたのだろう。しかし、負けた日体大とて最後まで、相手に挑みかかる気概、集中力は切れていなかった。保護者や観客の支持はつかんだ。

 日体大の古賀千尋監督は、ロッカー室へ引き揚げるグレースの選手たちにこう、明るく、声を掛けた。

 「お疲れ様です。ナイスゲーム!」

 そして、こうつぶやいた。

 「よきライバルですね」

 

 ◆古賀監督「大きいですね。痛いです」

 

 12月8日の日曜日。サッカーや少年野球、ラグビーなど、たくさんのスポーツイベントが開催されていた府中朝日フットボールパークの一角、緑の天然芝がひろがるラグビー場。京王線の飛田給駅から徒歩20分。遠い。JリーグのFC東京のファンでごった返す道路を細かくステップ踏んで、ラグビー場にたどりついた。

 15人制ラグビーの『OTOWAカップ 関東女子ラグビー大会』の第4戦。日体大はこれで2敗(2勝)を数えることになった。「痛い敗戦ですか?」と聞けば、古賀監督は小声で応えた。

 「(この敗戦は)大きいですね。はい。痛いです」

 


 ライバルのグレースは、「イズム」(自分達らしさ)に徹してきた。

 強みがセットピース(スクラム、ラインアウト)とコリジョン(接点)勝負。対する日体大はやはり「チームワーク」でつなぎ、走り勝とうとした。フォワードは健闘した。前半終了間際にはスクラムで相手のコラプシング(故意に崩す行為)の反則を2つももぎ取った。加えて、みんなディフェンスでもからだを張った。

 風上の前半、日体大はタックル、タックル、またタックル。気迫のナンバー8、向來桜子、闘志の塊、フランカー樋口真央キャプテン、フランカー持田音帆莉、ロックの村瀬加純…。見ていて、胸が苦しくなる。



 でも、数少ないアタックチャンスでは、相手の鋭いプレッシャーに気圧され、ハンドリングミスを繰り返した。樋口主将は試合後、途切れがちに言葉を継いだ。

 「やってて、自分たちのミスばっかだったんで。勝てない内容でした」

 ハーフタイムは、0-0で折り返した。

 


◆活躍の向來「学生同士の意地のぶつかり合いだった」

 

 後半、グレースは自分たちの強みを前面に出してきた。

 PKをもらえば、タッチに蹴り出し、ラインアウトからドライビングモールで押し込んでいく。ブレイクダウンでは、束となって圧力をかけていく。ライン際のそれで、何本かのターンオーバー(攻守交替)を許した。

 実は苦しい日体大のチーム事情もある。けが人に加え、日本代表遠征もあって、試合の登録メンバーは規定の23人より4人少ない19人。グレースよりも2人少なかった。つまり、交代選手の層が薄かった。選手交代は、相手の5人に対し、1人だけだった。

 グレースにラインアウトからモールをつくられ、ブレイクダウンからのサイド攻撃を重ねられて、パワーで2本のトライを奪われた。

 日体大は後半38分、ようやく、日体大らしいオープン攻撃から左右に揺さぶり、スタンドオフの大内田夏月が左ライン際のWTB江尻栞那にロングパスをつなぎ、そのまま左隅にトライした。


 この日もからだを張り続けたナンバー8の向來は言った。言葉に悔しさがにじむ。

 「自分たちのアタックができないまま、相手を波に乗らせてしまいました。自分たちの強みのディフェンスをする前に、相手のコリジョンで持っていかれてしまって…。やっぱり、自分たちで修正できなかったところが、あれ(敗因)かなと思います」

 それにしても、向來のタックル、ジャッカルは凄まじかった。そう言えば、ナンバー8は、「本当ですか?」と少し笑った。いつも、めげない。

 「ええ、学生同士の意地のぶつかり合いでした。もうちょっと、走りたかったな」


 

◆MIP受賞の大内田夏月「課題を修正して、次はもっと頑張りたい」

 

 ライバルのグレースの存在はありがたい。

 学生同士として切磋琢磨してきた。15人制ラグビーでいえば、2021年では日体大が敗れ、2022年、2023年と日体大が連勝していた。

 今年の夏合宿の練習試合では互角だった。でも、10月の練習試合では日体大がぼろ負けした。古賀監督は、「夏合宿から、そこまで(10月の練習試合)の期間の過ごし方にチーム全体として甘さがあったと感じています」と話した。

 「こういうもの(チーム力)って積み重ねてナンボじゃないですか。日体大は、そこ(10月の練習試合)でやっとスイッチが入ったんですけど…。ちょっと遅かったですね。」

 そして、ひと呼吸ついた。

 「同じ大学生だけど、自分たちが見習わないといけないところがたくさんありました」



試合の『Most Impressive Player(MIP)』に選ばれたSOの大内田は悔しくて泣いていた。グラウンドでの受賞インタビューでは涙声だった。

 「課題を修正して、次の試合ではもっと頑張りたいです」


 

◆古賀監督「次は、ワクワクするようなラグビーを」

 

 課題はまず、規律の徹底とプレーの精度か。

 課題を克服し、日体大イズムを取り戻せるか。チームでつないで、つないで、ラインブレイクできるのか、である。

 この日の日体大のオープン攻撃からはトライのにおいがあまりしなかった。



次の試合は14日(上柚木)、相手がFWに日本代表選手が並ぶ横河武蔵野Artemi-Starsとなる。

 古賀監督は明るく言い放った。

 「自分たちらしいアタックで、見ていてワクワクするようなラグビーをたくさんしたい。選手たちもやっていて、楽しいなと思えるような」

 いいぞ、いいぞ。

 そうだ。日体大には、テンポのいいアタックで、相手に走り勝つラグビーが似合っている。今年のヒット曲、クリスピーナッツの『Bling-Bang-Bang-Born』のようなリズムで。


              (筆:松瀬学/撮影:善場教喜さん)

 

 
 

まっちゃん部長日記

 

 これぞ大学スポーツの理想だろう。男子部員の応援を受けて、日本体育大学ラグビー部女子がいきいきと躍動した。日体らしい「継続ラグビー」で7トライを奪い、立正大アルカスに48-10で完勝した。

 やっぱり晴れた11月23日の勤労感謝の日だった。日体大の横浜・健志台キャンパスのラグビーグラウンド。『OTOWAカップ 関東女子ラグビー大会』の第3戦。午後2時にキックオフされた。気温がぶるぶる寒い9度。冷たい強風が吹き、スタンドの男子部員は肩をすぼめていた。でも、熱のこもった声援がとぶ。

 「ニッタイ、ニッタイ、ニッタイダイ!」


 

 ◆群青に染める。古賀監督「とっても、うれしいですね」

 

 今年度のチームスローガンが『翔』、そして活動目的は『群青に染める』である。成績はもちろんながら、今年度はさらに周りから応援されるチームになり、観客席を日体カラーの群青色に染めることをめざしているのだった。



 スタンドの男子部員や保護者、ファンは、群青色の小旗をばたばた振ってくれていた。そのスタンド風景を眺めた古賀千尋監督が幸せそうにぼそっと漏らした。

 「群青色の旗が目について、とっても、うれしいですね」

 スタンドに父親と座っていたちっちゃな女の子がこう、叫んだ。

 「青~、がんばれ~」

 

 ◆低くてまとまったスクラムで圧倒。峰愛美「自信ができました」

 

 中5日。前節の試合は、YOKOHAMA TKMに敗北した。序盤に先制トライを奪われ、チームの主導権を与えてしまった。セットピース(スクラム、ラインアウト)、ブレイクダウンでやられ、ハンドリングミスも続発した。

 でも、この日はちがった。前半5分の相手ボールのファーストスクラム、中盤での2本目のスクラム、日体大は8人が低く結束して一気に押した。大相撲でいえば、電車道。相手のコラプシング(故意に崩す行為)の反則を誘った。

 左プロップの“元気印”、峰愛美が述懐する。

 「序盤のスクラムでイケたので、自分たち、自信ができました」

 峰によると、前回の敗戦後、スクラムのスポットコーチ、山村亮さんから修正ポイントが入ったそうだ。もっとセットアップでまとまる。フロントロー、バックファイブ(両ロック、ナンバー8)のひざを低くして、FW8人で結束して組め、と。

 風下の前半はほとんどが敵陣だった。ラインアウトは序盤、うまくいかなかったけれど、試合の進行とともによくなっていった。攻めにニッタイらしいリズムが生まれる。FWが前に出て、生きたボールを出す。蹴っては、ボールを奪回し、継続して攻める。



 主将のフランカー、樋口真央が八重歯をのぞかせ、笑顔で振り返る。

 「前の試合は“入り”が課題だったので…。前半、ちょっと苦しんだんですけど、先に自分たちのペースに持ち込めたんで、よかったです」

 

 ◆継続ラグビー。大内田「自分たちがやりたいことができました」

 

 前半30分過ぎ、ラインアウトから展開し、ナンバー8の向來桜子がラックサイドを突破。タイミングよい球出しをSH山本彩花がさばいて左オープンへ。SO大内田夏月がロングパスをWTB梅津悠月につなぎ、左隅に飛び込んだ。

 天真爛漫の大内田が顔をほころばす。長い黒髪が揺れる。スタンドには、福岡から応援に駆け付けた母親の姿もあった。

 「先週の試合は自分自身がテンパちゃって、ははは。今日は落ち着いて冷静にプレーすることができました。いいキックも何本か蹴られました。チームとしても、自分たちがやりたいことができてよかったです」



 今日の試合のキーワードは『継続』か。

 「前に出て、ボールを動かし続けようというのがあって。それは結構、できたんじゃないかと思います。FWがごりごり、フィジカル的に勝ってくれて。FWが前に出たところで、バックスがボールをもらえたので、テンポがよくなりました」

 個々のタックル、ディフェンスもよく、前半は8-0で折り返した。



 SH山本彩花もFWに感謝する。澄んだどんぐりマナコがキラキラだ。

 「みんな勢いがあってよかったです。フォワードが前に出てくれたので、こっちもボールをさばきやすかったです」

 


 ◆後半にトライラッシュ。足がつった水野「最後はもう限界でした」

 

 風上の後半、日体大らしい攻めが炸裂した。

 序盤、立正大アルカスにトライを返されたが、すぐに連続攻撃を仕掛けていく。後半8分、ラインアウトから左右に展開し、WTB梅津が左ライン際を快走し、フォローしたCTB水野がトライした。これで勢いづいた。ナンバー8の向來、ロックの村瀬加純、キレキレのSO大内田、途中交代でプロップに入った八尋瑛、途中交代のウィング江尻栞那が、次々とトライを重ねた。後半は大量6トライと畳みかけた。ボーナスポイント(4トライ以上)もゲットした。



 この日もチーム事情は苦しく、通常8人のリザーブには5人しか登録できなかった。その分、一人ひとりが走り続けるしかない。寒さもあっただろう。終盤、足がつりそうな選手が相次いだ。最後は、水野が、ピキッとつった右足でボールをタッチラインの外に蹴り出して、ノーサイドとなった。水野が痛みをこらえながら笑う。

 「最後は、もう限界でした。それだけ、走り回ったんです。蹴る動作に入った瞬間、“あっ”となっちゃった」

 水野もまた、この試合に汚名返上をかけていた。

 「TKM戦に負けちゃったから、この試合にすごくアツくかけていたんです。アップ前から、みんな、気合が入っていました」

 


 ◆古賀監督「ようやく、ニッタイらしい試合ができました」

 

 スタンド上段の管制室。

 試合が終わると、古賀監督は安どのため息をついた。

 「ようやく、ニッタイらしい試合ができました。前回は、フラストレーションがたまる試合だったので。今日は、試合を通じて、自分たちのやりたいラグビーができました」

 選手たちの成長は?

 「蹴って、追って、奪い返して、アタックを継続できたことでしょうか。ラインアウトからもそうですけど、継続に成長を感じました」


 

 ◆エクボの西村澪「びっくりです。うれしいです」

 

 最も活躍した選手に贈られる、試合の『スターオブザマッチ』には、攻守にからだを張ったロックの西村澪が選ばれた。受賞のご気分は? と聞けば、エクボをつくって、顔をくしゃくしゃにした。

 「びっくりです。うれしいです」



 それにしても、タックルもがんばっていた。

 「はい。タックルする場面がたくさんありました。そのところで、しっかり相手を止めることができてよかったです。相手を敵陣に封じ込めることができて。ボールを奪い返すこともできました」

 FWはスクラムで押し勝ち、ラインアウトでも前回よりかは大幅に改善された。みんながんばった。とくに両ロックの働きが大きかった。

 チーム内表彰の『ゴールドシール』は、フッカー根塚智華とFB松田奈菜実がそれぞれゲットした。おめでとさ~ん。


 

 ◆樋口主将「これからも勝ち切っていかないといけません」

 

 まだ戦いはつづく。

 樋口主将は短く言った。

 「これからも、勝ち切っていかないといけません」


 

 それにしても、男子部員の応援はうれしい。ありがたい。

 大内田に聞いてみた。励みになりますか?

 「めっちゃ、なります、はい、なります」

 

 余談ながら、試合終了30分後、スタンドの陰で、数人の男子部員が、戦い終えた女子部員たちに差し入れをこっそり渡していた。ほのぼのとした空気が漂う。いいなあ。青春というか、若々しいというか、なんというのか、僕は純情を感じたのだった。



(筆:松瀬学/写真撮影:善場教喜さん)



 
 

まっちゃん部長日記@AGFフィールド

 

 まるで「日体フェスタ」である。秋晴れの日曜の11月17日。日本体育大学ラグビー部の女子も男子も、同じラグビー場で相次ぎ公式戦に挑んだ。ともにからだを張った。ともに相手に挑みかかる気概は見せた。でも…。ともに敗北した。少なくない男女部員が悔しくて泣いた。こちらの胸も痛くなる。ああ青春の涙は貴いのである。

 

【女子:●日体大 12-36 YOKOHAMA TKM】

 

 ◆古賀監督「セットピースとコリジョンで圧倒されて」

 

 太陽の陽射しが、府中・AGFフィールドの周りの赤や黄に色づいた木々の葉を照らす。並んで風に揺れるとキラキラ輝く。まず女子の試合が午前11時、キックオフされた。「OTOWAカップ 関東女子ラグビー大会」。相手は、ニュージーランド代表ら強力外国人選手を擁するYOKOHAMA TKMだった。

 「ニッタイダイ! ニッタイダイ! ニッタイダイ!」。さほど多くないスタンドの観客から大声が飛ぶ。その声を背に小柄な日体大選手たちはチーム一丸となって大きなからだのTKMにかかっていった。低くて、ひたむきなタックル。倒れてはすぐに立ち上がる。アタックでは時にテンポよくつないでいった。

 でも、チャンスになると、ハンドリングエラーが起きた。ブレイクダウンではパワフルな相手に圧力を受ける。時にはターンオーバー(ボール奪取)される。何といっても、ラグビーの基本であるセットピース(スクラムとラインアウト)で圧倒された。

 「(敗因は)セットピースですね」。試合後、古賀監督は小さく漏らした。

 「前半のラインアウトは(マイボールで確保できたのは)8分の3ですからね。これでは、厳しいです。セットピースとコリジョン(接点)で完全に圧倒されました」


 

 ◆ハンドリングミスでチャンスがつぶれて

 

 スクラムではコラプシング(故意に崩す行為)でPKをとられる。TKMのナンバー8、ラディニヤブニのパワフルなサイドアタック、NZ代表のCTB、ブルッカーの強くてうまいプレーにゲインを許す。日体大の闘将、フランカーの樋口真央やナンバー8向來桜子、CTB水野小暖らが賢明なタックルをするも、前半に3トライを奪われてしまった。ハーフタイム、0-22で折り返した。

 日体大としては、走力で相手を上回るしかない。後半9分、古賀監督は得点を取りに行こうと、アタック力のあるバックスの谷山三菜子、高橋夏未を交代で出場させた。攻めのテンポが上がる。その5分後、絶好のトライチャンスが生まれた。

 ラグビーセンスに長けたSO大内田夏月がボールを小さく蹴って、自らキャッチ、敵陣深く攻め込んだ。右に左に振る。もういっちょう大きく右オープンへ。ラインの人数は余っていたのに、ハンドリングミスでノックオン。ああ惜しい! チャンスはついえた。


 ◆ロック村瀬加純が、FB松田奈菜実が意地のトライ

 

 後半30分、ラインアウトのドライビングモールからTKMにトライを重ねられ、0-29と点差を広げられた。でも、日体大の闘志は衰えない。「ここから、ここから」。日体大選手の大声が出る。直後のキックオフ。相手がボール処理を誤ったところを逃さず、ボールを奪回し、密集サイドをFWが立て続けに攻めた。最後はロックの村瀬加純がディフェンスの壁をこじ開けて、ようやくトライをもぎ取った。こういう時の村瀬のからだのねじ込みは本当にうまい!



 試合後、村瀬に「ナイス! トライ」と声を掛ければ、「ありがとうございます」と頭をちょこんと下げた。そして、自分がリードするラインアウトを反省する。

 「でも、今日のトライをあまりとられなかった原因がラインアウトだから。そこの精度を上げて修正して、残りの試合はボーナスポイントをとって勝ちたいと思います」



 ロスタイム。点差は開けど、日体大の最後の意地である。相手の足は止まっている。一気に攻め込み、いいタイミングで右オープンに回す。高橋夏未からFB松田奈菜実にキレイなパスが渡り、右中間に飛び込んだ。12-36でノーサイド。

 松田は言った。

 「仲間が最後まで粘ってつないでくれたボールだったので、絶対にトライしたかった。よかったです」

 そういえば、終盤、途中交代でフロントローに入った1年生の樫山純佳、八尋瑛は踏ん張った。スクラムで相手からコラプシングを奪い返した。


 

 ◆悔し涙の樋口主将「悔しかったんで…。つぎ、がんばります」

 

 敗れたチームで一番活躍した「モストインプレッシブプレーヤー(MIP)」には、プロップ峰愛美が選ばれた。スクラムでは押されながらも、フィールドプレーで献身的な動きを見せたからだろう。いつも一生懸命。

 峰は「これで終わりじゃない」と言葉に力を込めた。

「全体的に敵陣にいけない時間帯が結構あって…。敵陣にいっても、スクラム、ラインアウトがちょっと後手に回ってしまって…。次の試合までには改善していきたい」

 樋口主将はペトボトルを左手に持って、右手で目元の涙をぬぐっていた。話を聞こうとすれば、また涙があふれてくる。すみません。声を絞り出した。

 「悔しかったんで…。つぎ、がんばります」



 ◆古賀監督「ひとつひとつ、プレーの質を上げて、成長していくしかない」

 

 ストレスフルな試合だったのだろう、通路の古賀監督の表情は疲れ切っていた。

 でも、目には力がある。前を向く。決して、くじけない。中5日で立正大(11月23日・日体大G)との試合がある。

 古賀監督は言葉に力を込めて、こう言った。

 「チームの成長を見る上で、何もできなかったという印象はありません。最後まで試合を捨てずに、学生たちがやっていたのは間違いないのかなと思います」

 課題は。

 「プレーひとつひとつの質ですね。精度です。セットピース、コリジョン、ハンドリングと。ひとつひとつ、プレーの質を上げて、成長していくしかないですね」

 ここで、ひと呼吸。

 「次は、もっと、もっと、成長した姿をお見せできるようにしたいと思います」

 午後1時、通路の外のグラウンドの方から大声が聞こえてきた。

 「ニッタイダイ! ニッタイダイ! ニッタイダイ!」

 何かと思えば、次の日体大の男子の試合の応援の掛け声だった。



 【男子 ●日体大 19-36 青学大】

 

 さあ、男子だ。関東大学対抗戦Aグループ(1部)。日体大の試合は女子に引き続き、午後2時、キックオフされた。相手が筑波大を倒した青学大。

 バックスタンドの一角には試合を終えた女子部員が全員、陣取った。高音の声援が秋風にのる。「ニッタイダイ、ニッタイダイ、ニッタイダイ」。学生らしい、いい光景だった。

 メインスタンドには保護者、OBが大挙して駆け付けている。昨年度の伊藤拓哉キャプテン(自衛隊)の姿もあった。加えて、女子部員にも応援されるって、何ともありがたいことじゃないの。


 

 ◆猛タックルの大竹智也「選手権にチャレンジしないと男じゃない」

 

 これで張り切らなければ、男じゃない。この日の日体大はとくにタックルが素晴らしかった。どんどん、低く、踏み込んでいく。タックル、タックル、またタックル。時には執念のダブルタックルも次々と決まった。黄色ライン付きの青学大の黒色ジャージをつぶしていく。

 猛タックルを連発した4年生のフランカー大竹智也は試合後、こう言ったものだ。

 「まだ(全国大学)選手権に対して首の皮一枚、つながっていたんで、そこにチャレンジしないと、ラガーマンじゃない、男じゃないと思っていました。からだを張ろうと心に決めていたんです」

 

 ◆痛恨の前半終了間際の失トライ。SH伏見「悔しさの味がこれまでとは全然違う」

 

 あえて勝負のアヤを探せば、前半終了間際の失トライだったであろう。

 前半終盤に青学大に先制トライを許した3分後、前半38分だった。日体大は猛反撃に転じ、敵陣に攻め込んだ。右側のラインアウトでナンバー8の岡部義大がうまくボールをキャッチし、左オープンに回す。WTBの勝目龍馬が鋭くタテに切れ込んで大幅ゲインした。タックルを受け、ゴールラインまで2、3メートルでラック。右サイドを突く。あと1メートル。またラック。さらに右サイドを突くかと思いきや、SH伏見永城は右にラインをひいたWTB勝目にパスし、さらに右ライン際のWTB古賀剛志にロングパスを投じた。

 これが乱れてワンバウンドし、こともあろうか、ボールは相手ナンバー8の内藤基の胸に収まった。前のめりの日体大は逆を突かれる格好となり、内藤にライン際を100メートル近く走られてしまった。最後、FB大野莉駒が懸命に戻ったが、タックルは届かなかった。スポーツの世界、「たら・れば」は禁句ながらも、もしも日体大がここでトライを返していれば、同点だった。が、スコアを0―10とされてしまった。

 伏見の述懐。

 「自分たちのミスでトライをとられてしまった。自分たちのクビを自分たちで締めてしまった感じです。インターセプトされてしまって…」

 でも、ここ2週間、練習でやってきたことは出せたと言葉を足した。

 「悔しさの味がこれまでとは全然違います」


 

 ◆湯浅直孝HC「やろうとしたことはやっていた」

 

 おそらく、試合の出来は今季一番だっただろう。

 1週間前には練習試合で大学王者の帝京大の胸を借りた。立教大に敗れた後、練習の質量も変わった。湯浅直孝ヘッドコーチは振り返った。

 「自分たちの足りない部分を補おうと、課題をひとつひとつつぶしてきたんです。エリアの取り方とか、ディフェンスのダブルタックルとか、ブレイクダウンのプレッシャーの掛け方とか。やろうとしたことは試合で出せていたと思います」



 後半10分過ぎ。途中交代出場のCTB嘉藤匠悟がナイスタックル。トンガからの留学生ロック、愛称「トム」ことパエア・レワががつんと相手を吹き飛ばす。相手のパントキックをWTB勝目が捕って、ディフェンス網のギャップをついて大幅ゲイン、パスをもらったFB大野がフランカー家登正旺につなぎ、家登がまっすぐ駆け抜ける。ラックで右オープンに。ワンバウンドしたボールをロックの岸佑融が捕って突進する。ゴールライン直前でラック。嘉藤がブラインドの右サイドを突いて、右隅に飛び込んだ。



 SO五味侑也が難しい位置からのゴールキックを左足で蹴り込んで、7-10と追い上げた。「ありがとう」の声がスタンドから飛ぶ。これは、イケる。本気でそう思った。その後、ワントライを加えられたが、後半22分には、相手ラインアウトをターンオーバーして、ラックからSH伏見がパントキックを上げた。青学大が処理ミス。左右に揺さぶり、SH伏見が右ライン際を上がってきたプロップ築城峻汰に飛ばしパスを投げ、築城がプロップらしからぬスピードで駆け、左ライン際に飛び込んだ。12-17と追いすがった。


 

 ◆痛かったラインアウトのミス。萩原一平主将「しっかり投げ込んで修正する」

 

 さあ、勝負のラスト20分である。

 日体大が勢い付く。でも、敵陣のマイボールラインアウトではフッカー萩原一平主将のノットスローインのミスでチャンスを逃す。逆に相手ボールのラインアウトからはトライを簡単に奪われてしまう。それでも日体大はあきらめない。



 ラスト3分の後半37分、マイボールのラインアウトをロック岸佑融がうまく処理し、またも左右のオープン攻撃を繰り出す。走る。つなぐ。走る。いいテンポで生きたボールが出る。負傷から復帰したFB大野莉駒が切れ味鋭いダッシュでゲインし、右ライン際のWTB古賀にパス、古賀が右から中央に回り込んでトライした。

 これで19-22。またも3点差に詰め寄った。スタンドの声援はもう叫び声に近かった。

 「ニッタイダイ、ニッタイダイ、ニッタイダイ!」

 でも、最後の最後にPKを与え、ラインアウトからのトライを献上した。立て続けに2本。最後は青学大のパワーに屈した格好だった。

 19-36でノーサイド。これで日体大は6戦全敗、1部の7位以下が確定し、対抗戦1部、2部の入れ替え戦に回ることが決まった。残念無念。

 萩原一平主将は「自分のスローが」と嘆いた。

 「大事なところで(ラインアウトのミスを)してしまっているんで。フッカーとしての役割を任されているところなので。練習でしっかり投げ込んで修正するしかありません」


 

 ◆秋廣秀一監督「勝てる試合を落としました」

 

 秋廣秀一監督はぽつりと漏らした。

 「勝てる試合を落としました」

 勝機はあっても、敵陣に入って、マイボールのミスがこれほどあっては、勝つことはできまい。同監督はこう続けた。

 「敵陣に入ってのラインアウトを何本かとれていれば…。ノット(ストレート)はちょっと…。でも、やってきたことが形にようやくなってきました。あとは精度ですね。敵陣にはいっての回すところ、ハンドリングエラーがなくなれば。もう一回、やってきたことを徹底して、(対抗戦グループ)最後の慶応にぶつかりたい」

 湯浅HCはこうだ。

 「やればできるということを改めて再認識できたと思います」

 次の慶大戦は?

 「勝たないと何も始まらない。勝ちます」

 

 ◆燃える闘魂、大竹智也「ようやく戦うチームになれた」

 

 この日のMIPにはトムが選ばれた。ピッチでのインタビュー。スタンドの観客に向かって、マイクに言った。緊張で声が上ずっている。

 「きょうの応援、ありがとうございました」



 大活躍のFWリーダー、ロックの岸は泣いていた。

 「やっぱり、ミスが…。自分たちのミスがとくに前半は多かったです」

 攻守に暴れたフランカー岡部もまた、泣いていた。

 「チームの出来も雰囲気も、間違いなく、一番、よかったです。だけど、また勝ち切れない。ニッタイの走り勝つラグビーが後半、できたんですけど、モールもセットプレーもまだ、相手の方が一枚上手でした。少し修正して、残る試合を勝ち切るようにしたい」

 

 有言実行。再び、燃える闘魂の大竹は言った。

 「みんな、きょうはからだを張っていました。これでやっと戦術的な反省もできます。そのチームとしての成長が、ようやく戦うチームになれたと思います」

 やっとで戦闘集団と化した日体大は12月1日、対抗戦最終戦として、日本のラグビー・ルーツ校、慶大に挑戦する。意地にかけて、無勝利では終われない、絶対に。


筆:松瀬学

写真撮影:女子は善場教喜さん

男子は大野清美さん


 

 
 

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