まっちゃん部長日記@日体大が関東大会初勝利「スカッとしません」
- nittaidai
- 11月27日
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ラグビー文化といえば、ダイバーシティーだろう。いわば多様性。多彩な個性から成る日本体育大学が、幾つかのクラブのメンバーで編成される「Pieces(ピーシーズ)」を31-14で下し、関東女子大会初勝利をあげた。
「スカッと勝つ」、これがこの日のテーマだった。2週間前の開幕戦はミスが相次いで惜敗していたからだろう、ハンドリングなど基本プレーを徹底練習してきた。だが、試合後、古賀千尋監督は苦笑いを浮かべながら、「スカッとしません、全然」と言った。
「14回ですよ、14回。前回は13回。ハンドリングエラーが多過ぎます。そこしか練習していなんじゃないかというぐらいやってきたんですけど、まあ、ミスが多くて。ほんと、フラストレーションがたまりますね」
◆ブレイクダウンは改善。SOMの八尋「がんばりました」
日曜の11月23日、勤労感謝の日だった。横浜・青葉台の日体大健志台キャンパスのラグビー場。曇り空、黄色や深紅に周囲の木々が色づいている。午後2時キックオフ。スタンドには学生の保護者や友人たちの姿もあった。紺色と水色の縞模様の日体の小旗がバタバタ、揺れる。「ニッタイダイ、がんばれ~」
日体大は、接戦を落とした初戦の経験を活かし、ブレイクダウンは改善されていた。ひたむきさとハードワークは相変わらずで、2人目の寄りがはやくなっていた。確かに相手チームのチーム力もあるが、初戦で12回も許したターンオーバーはこの試合、2回に減った。意識していたのだろう、とくにFWには結束力が強まっていた。
前半3分、PKをタッチに蹴り出し、そのラインアウトでナンバー8の向來桜子主将が捕球、モールをぐいぐい押していく。最後は、ピンク色のヘッドキャップをかぶった1年生フッカー、浦山亜子がインゴールにボールごと飛び込んだ。難しい位置のゴールキックを、これまた1年生のFB杉本姫菜乃(ひなの)が蹴り込んで、7-0と先制した。

そのあと、1トライを返されたが、前半19分、またもラインアウトからのモールを押し込んで、向來主将がサイドに持ち出してトライした。前半35分には、ゴール前のPKからFWが突進し、ラックの右をどんどんと突いて、左プロップの八尋瑛(あきら)がど真ん中にトライを加えた。

八尋は、試合の「スターオブザマッチ(SOM)」に選ばれた。いつもニコニコの陽気なキャラ。「がんばりました」と、太陽のごとき笑顔で振り返った。
「ボールを持っていくのが好きなんです。今日は(アタックの)基点をつくるのが目標だったんですけど、それはできたかなと思います。はい」
よく顔をみれば、左目の下に赤い傷跡があった。聞けば、激しいコンタクト練習でできたものらしい。ところで、「スカッとしましたか?」。
「試合全体ではスカッとできなかったけど、個人的にはスカッとできました。FWはボールをとれたし、ピック・アンド・ゴーでトライをとれたし。ホームでこのようなカタチで終われてうれしいです」

◆厳しいディフェンス、後半はトライを許さず
前半終了間際にFB杉本がゴール前のピンチでキックチャージを食らって、トライを返された。ショックだったんだろう、泣き顔をみると、こちらもつらくなる。こんな日もある。まだ1年生、この悔しさを成長の糧にすればいい。
ハーフタイム。前半を21-14で折り返した。
日体大は後半、頭から4人を入れ替えた。とくに日本代表クラスのプロップの峰愛美、センター畑田桜子の4年生がゲームを締めていく。ディフェンスに厳しさが出てきた。後半は、相手にゴールラインを割らせなかった。
攻めては、後半21分、頼りになる向來キャプテンがラックの左サイドに持ち出してトライ、後半34分には連続攻撃から、白色ヘッドキャップの八尋がまたもトライをもぎ取った。八尋さん、絶好調~!
◆チームMVPの西村「ミスなく、がんばりました」
チームMVPの「ゴールドシール」に選ばれたのが、FWのプロップ八尋、フッカー浦山、そして3年ロックの西村咲都希(さつき)だった。愛称が「さっちゃん」。
試合後、西村は八尋と並んでクールダウン。
西村は「私も、がんばりました」と笑い、冗談口調でつづけた。
「トライをとれなくても、お仕事はちゃんとしたと思います。自分はミスなしだし。はい、ミスなく、がんばりました」
そういえば、スタンドで西村パパは一番前に出てきてスマホで娘たちの円陣の写真を撮っていた。その姿に心を動かされる。話を聞けば、「小さいころから娘のラグビーに楽しませてもらっています」とうれしそうに言った。
「さっちゃんが、試合でがんばる姿がいいんです」
娘の西村はがんばり屋なのだ。昨年はケガで秋の公式戦には出場できなかった。いまも怪我を抱えているようだが、試合でガッツあるプレーを見せている。「最後までがんばります」と健気に言うのだった。

◆36歳のPiecesロック・村上「モチベーションはラグビー仲間」
ところで、相手のPiecesは、ダイバーシティーの象徴のようなチームである。数チームの合同チーム。この日のメンバー表をみれば、年齢は18歳から36歳までの選手が並んでいる。共通しているのは、ラグビーが大好きだということだろう。
36歳の村上愛莉さん(Brave Louve=ブレイブルーヴ)は、ロックでからだを張り続けた。ボールを持てば突進し、ブレイクダウンでは献身的な動きで奮闘した。
なぜ、この歳でラグビーを?
「モチベーションはラグビー仲間です。自分はうまくないですけど、仲間と一緒にラグビーをするのがとても楽しいんです。(からだで)痛いところがいっぱいなんです。でも、周りはいい子ばっかりで。みんな、年下ですけど」
実は、村上さんは異色の経歴を持つ。高校、大学、実業団とバスケットボールに熱中していたが、26歳でラグビーの魅力を知り、ラグビー転向を決めた。横河武蔵野アルテミ・スターズに入団、2019年7月には日本代表サクラフィフティーンのオーストラリア代表戦に途中出場を果たし、キャップを獲得した。
実は村上さんは「LGBTQ+」の理解促進をめざすNPO法人の理事も務め、日体大でも「ダイバーシティー&インクルーシブ」に関する講義の講師もしている。即ち、多様性を大事にしてもいるのだった。
村上さんは、日体大を女子ラグビーの牽引車としてレスペクトしている。「(日体大の選手は)みんな、がんばって練習して、ちゃんとした基盤があるし、応用もできるんです。古賀さんが愛情を持って学生を指導しているのでしょう。試合をすると、とても勉強になります。自分としては、日体大は絶対的な存在です」
ひと呼吸をおき、「恐縮ですが」と漏らし、日体大にエールを送ってくれた。
「学生時代は有限だから、一生懸命にラグビーに打ち込む価値は絶対、あるんです。古賀さんの言っていることを追求するとか。めちゃくちゃきついと思うけれど、思い切り、ラグビーに打ち込んでほしい。楽しんでほしい」
◆古賀監督「課題は継続すること」、向來主将「意識を変えよう!」
スカッとしなくとも、古賀監督はポジティブだった。
「とりあえず、初勝利はできました。ボーナスポイントもとれました。課題は(プレーを)継続すること。また、がんばります」
グラウンドの隅に全部員の円陣ができた。

勝利で終えたからだろう、みんなの表情に安ど感が浮かぶ。でも向來キャプテンは、「勝っていかないと、(上位4チームの)全国大会には行けないよ」と厳しい口調で言った。
「行きたいなら、自分たちの意識を変えないと。ずっと、このままなら、フラストレーションのたまったラグビーになるよ。できないことじゃない。できる人しかここにはいないと思っている」
ひと呼吸おき、言葉に力をこめた。
「やろう!」
力強いみんなの返事が紅葉の木々に溶け込んでいく。チームは発展途上。学生チームだもの、伸びしろは無限大である。

(文:松瀬学、写真:善場教喜さん)



