まっちゃん部長日記⑨2023年10月1日
睡眠不足だと足が遅くなる、ってほんとうなのか。プレーヤーのコンディションとパフォーマンスの関係はどうなっているのか。これまで感覚で表現されがちだった“質”を、数値で把握することがトレンドになりつつある。そんな風潮の中、日本体育大学でアスリートのコンディションに関するセミナーが開かれた。題して、「コンディショニングアプリをどう活用するか?」―。
日体大では、選手のコンディションを見える化する『ONE TAP SPORTS』がラグビー部女子などで導入されている。土曜の9月30日、横浜・健志台キャンパスで、学内の指導者およびアスリートのためのセミナーが開かれたのだった。
このコンディション管理ソフトは、2012年に株式会社ユーフォリアによって開発されて、2015年ラグビーワールドカップでも利用された。プレーヤーたちの日々の体調のコンディション管理・把握を行い、アスリートの自己管理能力の改善や傷害発生を予防し、アスリート、チームのパフォーマンスを高めることを目的としている。
日体大には独自の学生アスリート支援システムである日体大アスリートサポートシステム(NASS)があり、様々な領域の専門家が連携しながら多岐にわたるサポートを展開している。今回のセミナーはNASSにおける医・科学サポートを担っているハイパフォーマンスセンター主催のもと実施された。データの活用方法などにおける情報共有を図り、活用を活発化するとともに、導入クラブを拡大させるためだった。
ラグビー部女子では、「ONE TAP SPORTS」を2020年に導入した。同部の場合、毎日の入力項目は、「体温」「体調不良の有無」「腰の痛み/ハリ」「ハムストリングの痛み」「睡眠時間」「睡眠の質」精神的な疲労度」「体重」「体脂肪率」などとなっている。部員は毎日、それぞれ0~100の数値を入れることになっている。数値が低いと、アラートを意味する赤色で表示される。
効果は何といっても、自己管理の意識が高まることだろう。加えて、古賀千尋監督は「選手たちのコンディションが良いのか悪いのかを毎日、私が確認できます」と言う。
「うちは腰椎の椎間板ヘルニア気味の選手が多かったりするので、とくに腰の痛みや張りだったりは必ず、確認するようにしています。例えば、複数の選手が同じ日に腰の痛み/張りのアラートが出ていると、練習の強度を調整することになります」
ラグビー部女子では代表活動で部活を抜けるアスリートが多い。その場合は、代表で同じような体調管理がなされているため、部のアプリには入力する必要がなくなる。でも、時折、「精神的な疲労度」にがくんと落ちた数値を入れる学生がいる。SOSの信号かもしれない。古賀監督は、即座にラインを送る。「元気か? そっちではどうしている?」と。
つまり、「ONE TAP SPORTS」は指導者と選手のコミュニケーションツールともなっている。古賀監督はセミナーで説明する。
「毎日、決まった時間にデータが送られてきます。その数値を見て、この選手は腰がはっているので注意しようとか、みんな疲れているから、練習は軽めにしようとか判断することになります。コメントとして、ビンに入れたお手紙ではありませんが、グループラインでは送れないような、個人の思いのこもったメッセージが送られてくることもあります」
セミナーには、練習を終えたばかりの部員たちも参加してくれていた。
4年の高橋沙羅さんは「自己管理の意識が高まります」と言う。
「数値は、目に見えて分かりやすいので、自分の体調を把握しやすいです。例えば、疲労度の数値を見て、“きょうは結構、練習ができそうだ”とか、“調子がいいな”とか」
沙羅さんは4年間、毎朝、体重をアプリに入力してきた。
「朝ごはんの前に必ず、記録しています。やっぱり、強度の高い練習の翌日は体重が減っていて、その時は、朝ご飯をもっとしっかり食べようとか心掛けてきました。コンディションが数値で分かるのは助かります」
同じく4年の東あかりさんはこうだ。
「このワンタップを使えば、自分のコンディションを自分で把握できます。練習の強度が高いと自分の数値に反映され、意外と疲れているのだと分かります。そんな時は、ウエイトの時に重量を少し落としたりするんです。私は、朝起きてすぐ、入力しています」
1年の高橋夢来(ゆらら)さんは、神奈川・桐蔭学園高校時代からコンディションアプリを使っていたという。だから、自己管理意識がより高いのだろう。
「毎日の練習で100%の力を出し切りたいので、自分のコンディションを知っておくことが大事になります」
素朴な疑問。部員たちは毎日の入力が面倒ではないのだろうか。さぼることは?ラグビー部女子の入力率は85%を超える。利用クラブのほとんどがリマインド担当の部員を置いて、入力を呼び掛けているそうだ。
セミナーでは質疑応答もあった。睡眠時間に関する質問には、俊足の東さんが「ベストな睡眠時間をとるように心がけています」と回答してくれた。
「あまり短い睡眠時間だとパフォーマンスに影響を与えることが分かります。時間が足りないと足が遅くなる気がします。寝不足だと、からだが重くて」
理想の睡眠時間とは。
「自分は、7時間がベストです」
既に「ONE TAP SPORTS」を導入しているトランポリンの大嶋諒人コーチからは、部員の入力のタイミングや入力項目に関する質問もあった。議論は熱を帯びたのだった。
チーム強化の要諦は、睡眠、食事、トレーニングか。けが予防として、自己管理は欠かせない。「ONE TAP SPORTS」を導入しているクラブに共通しているのは、それが自己管理を促し、コンディション不良によるケガは減少し、チーム力の維持・向上が図られていることだろう。(松瀬学)