top of page

まっちゃん部長日記

まっちゃん部長日記@関東大会開幕戦


 雲ひとつない青空が広がる秋晴れである。まさにラグビー日和の11月3日の「文化の日」。15人制ラグビーのOTOWAカップ第35回関東女子ラグビー大会が開幕した。日本体育大学は合同チーム「Pieces」を36-10で破り、好スタートを切った。

 日体らしいハードワークとひたむきさ、一直線の頑張りに魂が揺さぶられる。ああ青春ど真ん中だ。さあ、新たな物語が始まる。


 ◆試合登録は3人足らずの20人。樋口主将「みんな、へとへとです」

 

 試合前、この日のメンバー表をみて驚いた。通常各チームの登録人数は23人、だが日体大は20人しか名前がないのだった。相手チームは当然、23人。古賀千尋監督に確認すれば、「けが人が多くて」と説明してくれた。試合後、チーム随一の頑張り屋さん、フランカー樋口真央主将は「みんな、へとへとです」と苦笑いしたものだ。

 「交代選手が少ないのは分かっていました。でも、走って、走って、走りました。とくにプロップ陣がよく、がんばってくれたと思います」

 ところで、相手チームの「Pieces」ってどんなチームなのか。「ピーシーズ」と読む。関東協会スタッフに聞けば、BRAVE LOUVE、自衛隊体育学校PTS、北海道バーバリアンズディアナ、弘前サクラオーバルズ、国際武道大学から成る合同チームだった。なるほど、「piece(部分、一片)の集合体を意味するのか。むしろ、「peace(平和)」の意味合いも感じるのだった。実は女子15人制ラグビーの競技人口の厳しさが見てとれる。

 また合同チームとはいえ、各チームのトップ選手の選抜チームみたいな編成だった。日本代表や、有力外国人選手も名を連ねている。手ごわそうな相手だった。

 

 ◆15人制ラグビーデビュー戦のFB松田奈菜実「楽しかったです」

 

 会場が、横浜市の日本体育大学健志台キャンパスのラグビー場だった。

 淡い黄色に染め始めた樹木に囲まれグラウンドでは、緑色のきれいな人工芝が陽射しに光っている。午後1時、相手ボールでキックオフ。風上の前半。ボールを持てば、紺色と水色の段柄ジャージの日体大が勢いよく走り出す。

 鋭く前に出るディフェンスが、攻めのリズムをつくる。とくにFWの集散がいい。ブレイクダウンから出た生きたボールを、SH山本彩花が左右にさばく。SO大内田夏月がディフェンスラインのギャップをつけば、観客席から感嘆の声が漏れた。

 前半5分。SO大内田が判断よく、絶妙のキックを左のインゴールに蹴り込んだ。「あ・うん」の呼吸で反応したFB松田奈菜実が好ダッシュを見せ、デッドライン目前でボールを押さえて先制トライした。笑顔で右手を突き上げた。

 日体大ラグビー場のインゴールは比較的広い。「地元の利」を生かした格好である。それにしても、松田はこの日、メチャ躍動していた。プレーに喜びが満ち溢れていた。

 試合後、松田になぜ?と聞けば、「デビュー戦ですから」と笑った。

 これまで2年間、ケガに泣かされ、15人制ラグビーでは公式戦に出ることはできなかった。だからだろう、「楽しかったです」という言葉に実感がこもる。

 「最初から、自信持って、思い切りプレーしようと決めていました。チームが落ち込んじゃった時も、自分は大声を出して盛り上げていこうと思っていました」


 ◆スターオブザマッチの向來桜子「最後は結構、ばてたので」

 

 松田がPGを追加した後の前半19分、SH山本彩花がラックサイドをスルスルと駆け抜けて、トライを追加した。ヘッドキャップからこぼれる束ねた長髪が秋風に揺れた。1トライを返されたが、前半30分、闘争心の塊、ナンバー8向來桜子が中央に飛び込んだ。地味ながら、FWのサポートプレーもよかった。ゴールも決まり、24-5とリードをひろげた。

 向來は、この試合の『スターオブザマッチ』に選ばれた。一番活躍した選手に贈られる賞である。星空が彩られた盾をもらった。

 向來は試合後、「結構、後ろからの押しもよかったので、いつもよりゲインできたかな」と周囲に感謝した。

 「(勝利に)ホッとしています。日体大はやっぱり、走るラグビーがメインだと思うので、それが最後まで出せたのがよかったと思います。ただ、最後は結構、ばてたので、もっと走れるようにしたいです」

 

 この日は、セットプレーのスクラム、ラインアウトが安定していた。

 選手の声もよく出ていた。疲れが見えた時、グラウンドで誰かが大声を出す。

 「前出るよ、ニッタイ!」

 「がんばれ、フォワード!」

 前半終了間際、SH山本がペナルティーキックから速攻を仕掛け、スピードよく駆け込んできたSO大内田につなぎ、右中間にトライを加えた。自分でゴールも蹴り込み、31-10で前半を折り返した。


 ◆ボーナス点ゲット。樋口主将「とれてよかったで~す」

 

 風下に回った後半は予想通り、相手に圧され始めた。

 交代メンバーを入れる相手に対し、日体大は3人を入れ替えただけだった。体格も相手の方が大きい。そりゃ、疲れるだろう。

 でも、日体大はもう1本はトライを欲しかった。前半のトライ数が日体大4本、相手は2本。3トライ差以上でボーナス点をゲットするためにはあと1本、トライが必要だったのである。で、相手にはトライを許さない。

 激しい攻防がつづく。とくに序盤、日体大はゴールライン前のピンチをよくしのいだ。フッカー根塚智華、右プロップ麻生来海、ロック村瀬加純、ナンバー8向來が接点でからだを張る。束となって守る。フランカーの持田音帆莉、樋口主将がナイスタックル!

 ゴールライン寸前で、持田がジャッカルして窮地を救ってくれた。ありがと。その後も耐える。守る。タックルする。粘って、粘って、後半36分、途中交代出場のプロップ西村澪のナイス!セービングからチャンスが生まれた。

 1年生ロックの八尋瑛が、フランカー持田が、ナンバー8向來が立て続けにタテを突く。ボクシングでいえば、ワン! ツー! スリー!とジャブをかまし、そして強烈な右のストレートだ。快足ウイングの梅津悠月が右ライン際を脱兎のごとく駆け抜け、右隅に飛び込んだ。これで3トライ差だ。やった~! ボーナスポイントゲットである。これは大きい。

 樋口主将が漏らした。

 「ボーナス点、とれて勝てて、よかったで~す」

 前述の通り、この日のスターオブザマッチは向來。で、チーム表彰のゴールドシールが、1年生の八尋と、4年生の大内田だった。でも、みんな、がんばってくれた。部長から、みんなに、“頑張ったで賞”を出したいくらいである。


 ◆古賀監督「自信が持てる試合が初めてできた」

 

 今年は夏合宿以降、チーム状態は苦しんでいた。

 古賀監督は「ほんと、ここまでが大変でした」と打ち明ける。

 「練習試合はぜんぶ、ぼろ負けで…。(ケガで)人はいねえわ、ディフェンスできねえわ、勝てねえわ、で、ぼろっぼろっだったんです。苦しかったですよね」

 ひと呼吸をおき、「ようやく」と言葉を足した。

 「自信が持てる試合が初めてできました。よくないところもありましたけど、いいところが多かったんで」

 ここ数週間はディフェンスの修正をやってきた。結果、試合ではディフェンスでしっかりと前に出ることができた。アタックのポゼッションも継続できるようになった。

 それにしても、日体大はよく走りますね、と声をかけると、古賀監督は「それしかないんで。重さ(体重)がない分」と苦笑いをつくった。

 

 最後に聞いた。

 今年はどんな新たな物語を紡ぎますか?

 古賀監督はプッと噴き出した。「とりあえず」と言った。

 「“とりあえず”ですよ、無事に完走したい。とてもじゃないですけれど、楽観的な事は言えません。正直、コツコツ、目の前のことを精一杯やっていくしかありません」

 はてさて、どんな物語になるのか。どんな色合いの風景が広がっているのか。ふと選手たちの歓喜の輪をみると、その周りを、古賀監督の愛犬、ダックスフンドの「リュウ」ちゃんが走り回っていた。

 大リーグのワールドシリーズを制したドジャースの大谷翔平の愛犬、デコピンのごとく、飼い主のチームの勝利を祝っているのだった。


                       (筆:松瀬学)

 
 

 まっちゃん部長日記@菅平合宿


 青春ど真ん中である。再び、標高千数百メートルの長野・菅平高原に登れば、今度は日本体育大学ラグビー部女子の学生たちが鍛錬に励んでいた。己へのチャレンジ、汗と情熱がほとばしる。



 少し秋めいてきたけれど、まだ陽射しはきつい。気温は東京より数度は低く、高原ならではの涼しい風が吹く。一緒に練習して寝泊まりする5泊6日の合宿。日本代表の遠征や教育実習などでの不参加者も多いが、古賀千尋監督によると、テーマは「基本プレーの徹底と基礎作り、ラグビー理解度のアップ」となる。つまりは、秋の15人制シーズンに向けてのベース作りだろう。

 古賀監督は言った。いつもの水色の帽子の下の表情には充実感がにじむ。

 「学生たちはいろんなことを学習している過程ですから。ここでは、(練習試合の)結果を出すというよりは、体験して学んで次につなげていく機会を得るんです。そういった意味では、すごくいい合宿ができています」

 

 ◆熱い練習試合、日体大はアルテミスターズと激突

 

 合宿3日の13日。午後は、日体大や横河武蔵野アルテミスターズ、横浜TKM、日本経済大学、RKUグレースの女子5チームが、向井館そばの「80番」「96番」グラウンドに集まった。余談を言えば、菅平高原には大小108面ものラグビーグラウンドがある。

 30分1本の練習試合が対戦相手を変えて次々と行われていく。日体大はまず、アルテミスターズと激突した。7人制ラグビーと15人制ラグビーの一番の違いはコリジョン(接点)の激しさか。ナンバー8の樋口真央主将やロックの持田音帆莉がひるまずぶつかっていく。スタンドオフの大内田夏月が鋭いパスで相手ディフェンスを切る。キックも冴える。

 SH山本彩花が好パスでラインを動かす、CTB松田奈菜実が力強いランでゲインする。WTB高橋夢来(ゆらら)が鋭利するどいランでチャンスをつくる。おっ! 1年生の八尋瑛(あきら)が猛タックル。


 中盤、青色ヘッドキャップのプロップ麻生来海(くるみ)がラックサイドを突いてトライした。終盤、1トライを許し、トライ数は1本ずつで終わった。

 遠くの白い入道雲が陽射しでキラキラ光っている。グレーの雨雲もにょきにょきひろがってきたかと思えば、遠くからカミナリの音が聞こえてきた。ゴロゴロ、ゴロゴロ。

 

◆日体大、TKMにはコリジョンで力負け。でも、魂のタックル

 

 次の相手は、強力外国人を複数擁するTKMだった。

 からだの大きさ、パワー、フィジカルで圧倒され、ブレイクダウンで後手を踏む。身長差ゆえか、未熟なスローイングゆえか。マイボールのラインアウトを確保できない。先制トライを許したが、日体大は10分過ぎ、ロック持田がラックサイドを持ち出してビッグゲイン、フォローしたSO大内田につなぎ、左中間にトライした。



 コリジョンでやられた。パワーで押され、相手に2トライを加えられた。でも、ゴールライン間際のディフェンスはしつこかった。樋口主将が、大内田が外国人の突進をタックルで阻む。ロック西村澪もからだを張った。



 古賀監督は、「タックルは思っていた以上によかったなあ」と漏らした。

「とくにゴール前は粘っていた。そういうところは偉かった。絶対にあきらめない、その粘り強さはすばらしかった」

 

◆古賀監督「思っていた以上にみんな、頑張った」

 

 結局、トライ数は、1本対3本だった。とくに1年生にとっては、シニアのチームの強度がどのくらいか勉強になっただろう。古賀監督は、「思っていた以上にみんな、頑張った」と選手をほめ、こう続けた。

 「外国人選手やシニアチームの強度を体験できたということはよかったです。コリジョンの部分で全然通用してなかった部分もあったけれど、それが糧になって、もっと頑張らなくちゃという気づきになってくれれば、この合宿は成功ですよ。身を持って体験しないと頑張れないと思うので」

 

余談。

 グラウンドは緑色の高いネットで防御されているけれど、時折、キックしたボールがネットを越えて林に飛び込んでいく。実は、このボール探しが難しい。プチ感動。試合後、けが人の湯浅月葉と細合智羽の1年生コンビがボールを探しに行った。無事、確保。ボールを抱えて戻ってきた細合の足元を見れば、白いシューズはドロドロに汚れていたのだった。



◆レフェリーのレッスン、チームディスカッションは気づきの場

 

 試合後、試合の笛を吹いていただいたアルテミ所属の牧野円レフェリーからルールのレッスンがあった。質疑時間もあって、これは、ルール理解度が進む。

 日体大はその後、役割ごとの3つのグループに分かれてミーティングを開いた。

 意見を出し合い、グッド(よかった点)、バッド(悪かった点)、ネクスト(改善点)をみんなで洗い出す。古賀監督は議論に入らない。これが、学生のラグビーナレッジを磨くことになっているのだろう。

 グループディスカッションが終われば、チーム全員がひとつになって、それぞれが結論を発表する。古賀監督が質問する。

 「それでは、次に一番変えないといけないところはどこですか?」

グループリーダーがそれぞれ応える。

「〇〇〇」

「×××」

「△△△」

いいレビューである。

 

◆ゴールドシール賞は松田、持田、そして1年生の八尋。「ワンダフル」

 

 さあ、この2日間の練習試合の「ゴールドシール」賞の発表である。

最も活躍した選手を祝福するセレモニー。古賀監督が3枚の金色のシールを手に持ち、「さあ、ゴールドシールの発表で~す」と言う。

 学生たちは、「ジャガジャガジャガ~」と言いながら、両手で脚をたたく。

「1枚目は、松田奈菜実くん。ドライブ、素晴らしかった」

「ヤッター!」

 

ジャガジャガジャガ、ジャガジャガジャガ~。

「もう1枚は、ネオリさん(持田)。ボールキャリーもだけど、やっぱりタックルがよかった。相変わらず、ひるまず、大きい相手にもガッツリ入っていたね」

ジャガジャガジャガ、ジャガジャガジャガ、ジャガジャガ~。

「最後の1枚は八尋さ~ん。同じくボールキャリーとタックルでよく頑張っていたと思います。リハビリ明けとは思えないほどの活躍でした」

 選手の円陣のそばに寄ってきた古賀監督の愛犬、ベージュ色のダックスフンドの「リュウ」ちゃんが突然、「ワン、ワン」と吠える。そう、ワンダフルのワンと。



 このあと、日体大ファンのフォトグラファー、善場教喜さんから差し入れが樋口主将に渡された。5個の新品ラグビーボールとマスカット、栄養ドリンク…。ありがたいことである。

 

◆樋口主将「合宿はオモシロい」

 

 みんな疲労困憊。

 樋口主将が疲労感を漂わせながらも、「いい合宿ができています」と少し笑った。

 「ふだんは相手を付けて練習できないので。試合を想定した合同練習や練習試合で、実戦を肌で感じることができています。しんどいですけれど、合宿はオモシロいです」

 それにしても、この日の日体大のタックルには胸を打たれた。

 とくにゴール前のディフェンスはしつこかったよね、と言えば、主将は破顔一笑、「私たちは泥臭く、頑張るだけです」と言葉に力をこめた。



◆増量計画

 

 話題が、チームの『増量計画』に及んだ。

 小柄な選手が多い日体大。各自が月ごとの目標数値を設定し、食事や栄養補給を心掛けている。樋口主将が、「増量組代表がナッツ~(大内田夏月)で」とこぼし、噴き出した。

 「ナッツ~は食事の時間、頑張って食べているんですけれど、しゃべる方の口が忙しくて。1年生の橋本(佳乃)さんから、“ナツさん、おハシ(を持って食べて)”、って声が飛ぶんですよ」

 樋口主将が「ナッツ~」と呼べば、大内田がアイシング用の氷のビニール袋片手に「ナニ、ナニ」と寄ってきた。

 「はい。私は、頑張って、頑張って、食べています。食べているんですけど…。体重を増やすというより、キープですね。(HPに)ああ書かれる~」



 

◆女子ラグビー界はビッグファミリー。和気あいあいのBBQパーティー

 

 その日の夜、グラウンド近くのサングリーン菅平で練習試合をした5チームが一緒になってバーベキューパーティーが開かれた。総勢、約150人。各チームの踊りやお笑いの出し物もあって、和気あいあい、笑顔と親睦の輪がひろがった。

 まるで『ビッグファミリー』、この関係性は女子ラグビーならではだろう。

 僭越ながら、いや恐れ多くも、僕が乾杯の音頭をとることになった。

 それでは、みなさん、声高らかに。

 青春にかんぱ~い!


                    (筆・松瀬学=写真は撮影・善場教喜さん)

 

 
 

まっちゃん部長日記@女子7人制ラグビー全国大学大会3連覇


 青春っていい。チームはいい。家族もいいもんだ。学生スポーツならではの“ひたむきさ”と親子の情愛に触れると、つい泣きたくなる。女子7人制ラグビーの全国大学大会『Women’s College Sevens 2024』の決勝トーナメントが7月14日に開催され、日本体育大学ユニコーンズが追手門学院大学ビーナスを12-0で破り、3連覇を達成した。ユニコーンズプライド、バンザイである。



 ◆雨中の決勝戦も堅実な基本プレーとひたむきさで快勝

 埼玉県熊谷市の立正大グラウンドだった。昨年の同大会は猛暑日の熱闘だった。前日の予選プールも炎天下だった。だが、この日は朝から雨が降り続け、幾分、アツさが和らいでいた。確かに雨天の試合はボールが手につかずハンドリングミスが起こりやすくなる。だが、だからこそ、基本プレーの優劣が如実に結果につながることになる。つまりは、ふだんの練習の積み重ねの差が出ることになる。

 

 ◆ラストセブンズにチーム結束。古賀監督「泥臭いラグビーをやろう」

 いわば『ラストセブンズ』である。大学のチームは毎年メンバーが入れ替わっていく。7人制ラグビーの試合としては、本年度のラストマッチとなる。4年生も3年生、2年生、1年生も、一緒に鍛錬してきたチームにとっては、このメンバーによる最後の試合が大学3連覇をかけた決勝戦だった。

 「うちらしい泥臭いラグビーをやろう!」。日体大女子の古賀監督は試合前、そう選手たちに声をかけた。そのココロは。

 「きれいなラグビーをやろうとしても、天気が雨だし、フィジカルを前面に出していくしかなかったからです、泥臭く」

 泥臭くとは、接点では前に出る。足をかく。サポートの2人目、3人目も激しくからだを寄せていく。攻めては、しつこくフォローする。つなぐ。ディフェンスでは、タックル、タックル、またタックル。1人目で相手が倒れなければ、2人目が襲い掛かる。休まず、レッグドライブ。そして、イーブンボールでは絶対に後手に回らない。こぼれたボールにも飛び込んでいく。ひたむきに。

 相手の追手門大学は「打倒!日体大」に目の色を変えてきた。挑みかかる気概に満ちていた。でも、日体大もチャレンジャーだった。からだを張る。とくに4年生の覇気たるや。

 

 ◆からだを張った4年生「リコの分もがんばる」

 そういえば、4年生はみな、左手首に白いテーピングテープを巻いていた。黒マジックでこう、書かれていた。<リコの分!!>と。

 リコとは、ケガで試合に出られなかった4年生のバックスリーダー、山田莉瑚選手のことである。その<リコの分もがんばる>との思いが4年生のプレーから伝わってきた。

 前半は、何度も敵陣深く攻め込みながら、ゴールラインを割ることができなかった。追手門大のディフェンスがしつこかったこともあるが、日体大はトライをとり急いでいた。そう見えた。

 トライはとれなくとも、日体大のディフェンスの出来はよかった。キャプテンの樋口真央選手や大内田夏月選手らの4年生が猛タックルでチームを勢い付けた。3年生の向來桜子選手が強じんなフィジカルを生かし、相手を力でつぶす。髙橋夏未選手、持田音帆莉選手のサポートプレーもしぶい。そして、フレッシュな谷山三菜子選手、橋本佳乃選手の1年生コンビが伸び伸びプレーした。

 

 ◆チームはひとつで鉄壁防御。4年生の大内田選手、梅津選手が意地のトライ。

 0-0で折り返す。勝負の後半だ。

 4年生の頑張り屋、梅津悠月選手、2年生の髙橋夢来が交代でピッチに出る。開始1分を過ぎたころだ。自陣深くのラックから4年生の大内田がサイドの防御網を切り裂いて、相手タックルをきれいなスワーブでかわし、鋭利するどいランで約80メートルを走り切った。ビューティフル・トライ!



 ついに均衡が崩れた。谷山選手がドロップキックを蹴り込んだ。7-0。その後、相手の反撃を、水野小暖選手、髙橋夢来選手がナイスタックルで阻む。向來選手が相手をはじき飛ばしながら突進していく。激しい攻防がつづく。大内田選手が猛タックルを繰り出す。みんなのハートが結束する。雨に濡れるピッチサイドのスタンドの一列目に座ったノンメンバーも声を枯らす。1年生は、手作りの谷山選手、橋本選手のカラフルな応援うちわをばたばた打ち鳴らした。


 「イケ、イケ、ニッタイ!」

 もうチームはひとつだった。終了間際。相手ノックオンを誘い、マイボールに。一気に回す。つなぐ。最後は梅津選手が約30㍍を走り切った。意地の、いや執念のトライだ。

 12-0でノーサイドの笛が鳴った。ベンチから選手が飛び出し、ピッチ上で歓喜の輪ができた。

 古賀監督は三度、選手たちの手で宙に舞った。

 「サイコーです」。そう漏らし、声を弾ませた。

 社会人や外国人選手も参加する春の『太陽生命ウィメンズセブンズシリーズ2024』(全4戦)で、日体大は健闘しながらも、総合5位に終わった。昨年は2位だった。それでも、選手たちは確実に成長し、3年連続の大学日本一に結実した。

 優勝の意味を問えば、古賀監督は「やっぱりユニコーンズプライドですよ」と即答した。

 「太陽生命シリーズですごく鍛えてもらいました。だから、選手たちは成長していたのだと思います」

 

 ◆伸び伸びプレーの1年生コンビ、谷山選手と橋本選手

 その象徴が、1年生の谷山選手か。

 プレーのキレ、ランのシャープさ、判断のスピード…。プレーが見違えるほど鋭くなっていた。6月の女子セブンズの世界学生選手権(フランス)の日本優勝の経験もあるのだろう、プレーに自信があふれていた。谷山選手は「素直にうれしいです」と言った。

 「この4年生と試合ができる最後のセブンズだったんで。4年生のためにも絶対、がんばろう、優勝しようと思っていましたから」

 経験は宝である。

 「ほんとうに濃い3カ月間でした。太陽生命から試合に出させてもらって、フランスでもいろんな刺激をもらって、自分の強みが再認識できました。(大学ラグビーに)慣れてきたのもあると思います」

 もう一人の1年生、橋本も笑顔だった。

 前日の予選プールではハンドリングミスが目立っていた。でも、この日、起用し続けた監督の期待に応えた。「すごかったですね」と声を掛けると、「はい。がんばりました」と無邪気に笑った。目がキラキラだ。

 「昨日は、先輩たちが言葉でフォローしてくれました。例えば、“気にしなくていいよ”とか。今日は先輩を信頼して、自分なりに精一杯プレーした感じです。はい。思い切ってやれた感じです」

 

◆涙、涙の梅津ファミリー

 あちらこちらで記念撮影が行われていた。ふと見ると、梅津選手がご両親と喜びを分かち合っていた。梅津選手は大会前、ケガに苦しんでいた。さぞ、つらかっただろう。それだけに、この日の活躍はこちらの心を揺さぶるものがあった。

 「よかったね」と声をかけると、梅津選手は大粒の涙をぽろぽろっとこぼした。「ありがとうございます」。その涙のワケを聞けば、涙声で言葉を絞り出した。

 「ひさをケガして…。ほんとうはもうちょっと(試合に)出たかったけれど…。4年間、みんなと一緒にやってきて、これがラストのセブンズだったので。その寂しさもあるし、ちゃんと1位をとれてうれしいという気持ちもあります。そういった涙です」

 梅津選手の話を聞いていると、あれ、隣のおとうさんも泣いていた。その涙を見て、古賀監督も涙ぐんでいた。空が泣く。梅津ファミリーも泣く。監督ももらい泣きする。なんとハートフルな光景だろう。



 梅津ファミリーのほかにも、樋口主将や3年生の髙橋夏未選手、2年生の髙橋夢来選手、水野選手らの保護者の方も雨の中、スタンドに駆け付けてくれていた。

 また、フォトグラファーの善場教喜さんのサポートもありがたい。

 素敵な写真をボランティアで撮影していただくだけではなく、暑さ対策として、キャンプグッズの大容量のバッテリーやポータブル冷凍庫などをご提供いただいている。

 これがどれほど選手たちの役に立っているのか。もう感謝しきれないものがある。

 我が持論なれど、周りに応援されるチームは強いのだ。

 

◆大会MVP髙橋夏未選手「4年生とセブンズができるのは最後」

 大会MVPは3年生の髙橋夏未選手だった。攻守に大活躍した。とくにボールのさばきと鋭いランは抜群だった。パリ五輪代表は最後の最後に逃した。

 実は、チームメイトには「優勝して、MVPを獲る」と宣言していたらしい。

 有言実行。髙橋夏未選手は、「オリンピックがダメだったけれど、ワタシ、そんなのでモチベ(モチベーション)が無くなるタイプじゃないんで」と漏らした。心の強い選手だ。

 「じゃ、国内の大会でがんばろうと思っていました。くよくよしてはいられないと。4年生とセブンズができるのは最後だし、こう、何だろう、チームを勝たせられるようにからだを張ろうと決めていました」

 パリ五輪の悔しさもやがては良き財産となる。きっと4年後のロサンゼルス五輪出場につながるだろう。髙橋夏未選手は、いつも前向きだ。

 「その時(パリ五輪メンバー落選)は応えたけれど、もっと経験を積まないといけないと思いました。まあ、実力不足のところがあったので。国内レベルの試合なら圧倒してやろうと思っていました」

 

◆向来選手「すごく楽しかった」

 もう一人の3年生の向來選手も奮闘した。準決勝の立正大戦では闘志が前に出過ぎて、危険なタックルでシンビン(2分間の一時退場)をもらった。

 決勝では、向來選手は準決勝の一時退場の分も帳消しにする大活躍を見せた。

 「決勝戦、すごかったですね」と言えば、向來選手は「みんなと試合に出ているのがすごく楽しかったです」と笑った。

 「決勝戦は4年生の意地を感じて。やばかったです。4年生になると、私たちもあんなに変われるのかなって思います」

 

◆大内田「最後勝ててよかったです」

 その4年生のエースが大内田選手だった。

 いつものごとき、ここぞというときの集中力が光った。「おめでとう」と声をかければ、大内田選手は「3連覇というプレッシャーもあって」と打ち明けた。

 「このメンバーでできる最後のセブンズだったので、楽しもうという気持ちと、絶対勝たないといけないというプレッシャーと…。最後勝ててよかったです」

 

◆とっても大変で、とっても大切な日々が、大学最強のチームを創り上げた

 表彰式のあと、15分程して、やっとで樋口主将がメディアのインタビューから解放された。

 胸もとには優勝トロフィーの収まった白い紙ボックスを大事そうに抱えている。「強かったですね」と声を掛ければ、「いやいや、私は何もしなかったので」と謙遜し、笑いながらキュートな八重歯をのぞかせた。こう、真顔で漏らした。

 「ほんとですか。強かったですか。よかった~」

 そして、言葉に実感をこめた。

 「ほっとしています」

 ひと呼吸おき、また笑った。

 「よかった、ほんと。3連覇できて。試合はきれいにやらず、泥臭く、泥臭く、みんなでディフェンスしました。ディフェンスは結構、よかったと思います」

 ことしの日体大、どんなチームですか?

 「めちゃ、いいチームですよ。すごくみんな、仲がよくて。試合になれば、目の色を変えて戦い、終われば、わちゃわちゃして」

 とっても大変で、とっても大切な日々が、大学最強のチームを創り上げた。そのチームワークの結晶が、このプライドをかけた大学3連覇なのだった。(松瀬学)



 
 

〒227-0033

神奈川県横浜市青葉区鴨志田町1221-1 

日本体育大学 健志台キャンパス

© 2025 by 日本体育大学ラグビー部女子  Proudly created with Wix.com

bottom of page